平成28年度には、まず日本国内での調査を踏まえ、ケベックに渡航し、ラバル大学およびマギル大学にてケベック州内の民法学者のインタヴューを行った。そして、同インタヴューを踏まえ、本研究を総括し、「ケベック民法典における「他人の財産の管理」制度の法典化の意義について」金沢大学59巻2号117-155頁を公表した。 まず本研究によって、1299条から1370条に及ぶケベック民法典第4編第7章「他人の財産の管理」の個々の規定の意義や立法背景が明らかにされた。なお、この条文検討はまだ概説的なものにとどまり、個々の規定をめぐる議論の詳細や、カナダ他州おけるコモンローとの関連については、いくつかの重要条文を取り上げて個別に検討する必要があることが明らかとなった。 次に、個々の条文の体系化の視座として、従来、着目してきた権限(pouvoir)理論がケベック州内で一定の支持を得ており、その背景として、コモンローと対峙するうえで、大陸法上の概念が求められたことが確認された。その一方で、「他人の財産の管理」の章が財産編に設けられた理由は、インタヴューなどを通じて、積極的理由ではなく、従来から財産編に位置づけられてきた信託や充当資産との関連の深さが理由であったことが明らかとなった。 以上を踏まえ、本研究ではケベック州内の文脈を超え、我が国のどのような議論につながるかを検討した。一つ目に「他人の財産の管理」を設ける法典論上の意義について、債権法改正における「役務提供契約」の重層型の規律や中間理論との相似性、二つ目に「自己の財産の管理」を基礎づける「権能」と目的的な権限(pouvoir)の区別の理論的要否について検討を加えた。
|