今年度は、まず初めに昨年度研究会及び学会において報告を行った際に頂いた指摘について取り組むこととした。特に重要と考えた点は、離婚時・別居時における婚姻住居の利用の際の第三者との関係についてである。例えば婚姻住居に配偶者のための賃借権を設定したが、抵当権が実行された場合にどのように対処するのか、である。この点、現制度では限定的な保護(民395条:抵当建物使用者の引渡しの猶予)に過ぎない。ドイツでは別居時の婚姻住居の利用については、利用権を妨げる行為を禁止することが条文上規定されているものの、当該条文から第三者を拘束するか否かは、学説及び裁判所でも考え方が分かれるとの事である。さらに、婚姻住居の公示をいかに行うのかという点についても、諸外国では公証人が関与することが求められている事が多い。この点、わが国でも同様の関与の必要性が考えられる。 次に、ドイツにおける本問題の研究を進めていくうえで、実務上裁判所において離婚時における婚姻住居の割当てはそれほど行われておらず、多くは別居時点において争われていることが分かった。従って、別居に関しても改めてその意義及びもたらす効果について研究を進めた。ドイツでは別居が法定されており(BGB1567条)、別居の際には、婚姻住居に関する法的関係、親の配慮及び面会交流、子の扶養及び配偶者扶養、税法上の課税形態について取決めがなされる。また、これらの取決めには、公証人による文書作成が必要不可欠であるとされている。別居における様々な制度は、家族内の弱者を保護するためのものであり、わが国でも平成8年の法律案要綱において示された別居5年で離婚とする制度を導入するのであれば、別居についてより詳細な制度設計が必要となる。
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