本研究は、保険とクレジット・デリバティブの法的区別の問題について、アメリカ法の議論を参考に検討を行うものである。平成27年度は、アメリカ法の議論を参考に研究を行った。アメリカ法の議論から、次のような日本法への示唆が得られた。 第1に、わが国の支配的見解が主張してきた「損害てん補基準」考え方には、妥当範囲の限界が存在することである。第2に、アメリカ法の議論の背景にはそれに特有の事情が存在するため、仮にクレジット・デリバティブに保険規制を適用することに肯定的な立場をとるとしても、その論拠としてアメリカ法の議論の論理を用いることは困難であることである。第3に、保険とクレジット・デリバティブの法的区別の問題を実質論的に把握しようとするアメリカの学説については、わが国においても参考になる部分があることである。このような議論で最も重要なのが、「規制潜脱目的の取引移転」に関する主張である。この点に関する解決策が提示されていない現状からすると、現時点においてこの問題を解決することは困難なのではないかと思われる。 わが国の支配的見解は、「損害てん補基準」を用いて、保険とクレジット・デリバティブの法的区別を説明してきた。しかし、この見解の下では、損害てん補の要素を具備する可能性のあるカバードCDSのような取引について、保険との異同を十分に説明することができない。そのため、理論的には、カバードCDSのような取引に保険規制が適用される可能性があったといえる。この点について、本研究では、「損害てん補基準」に加えて、「規制潜脱目的の取引移転の防止」という実質的理由を用いることにより、保険とクレジット・デリバティブの関係を整理することができると考える。 以上の研究内容については研究会・学会等で報告を行っている。また、これらをまとめた研究成果については現在公表準備中である。
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