当年度の活動は、昨年度までに実施済みの研究を補充し、フランス法との比較研究に関する知見を精密にすることを目的とするものであり、留保された予算も僅少であったため、多くの実績が見込まれるものではなかった。具体的には、昨年度に予定していた国外出張を行うことに加えて、パリ第1大学において研究報告(2019年2月4日)を行うことにより、比較法研究の内容を拡充することを試みた。いずれにおいても、日仏の両国において、近年の債権法改正を契機として附合契約・約款の法的取扱いを定める規定が民法典のなかに新設されたことから、それらについての調査と意見交換を行った。研究出張においては、主にフランス民法典1171条に関する意見交換を行い、研究報告においては、日本法に導入された定型約款に関する規定等を紹介し、これについての意見交換を行った。 以上のほか、過年度の研究成果を前提とする論文執筆を進め、その一部を公刊した。当該論文においては、フランス担保法における「念書(lettre d'intention)」(フランス民法典2322条)の法的取扱いを包括的に考察した。具体的には、「念書」として交付される書面が法的効力を有するとされるのはどのような場合であるか、また、法的効力を有するとされた場合にどのような債務が発生するかを、フランス法における学説・判例の展開に即して論じた。本研究の成果は、念書の法的効力の有無に関する議論の分析において反映されている。
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