研究課題/領域番号 |
26780068
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
原 弘明 近畿大学, 法務研究科, 准教授 (70546720)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 会社法 / 債権者 / 従業員 / 労働法 |
研究実績の概要 |
2年目である本年度は、日本の会社法における会社債権者・従業員の解釈論について考察を深めた。論文の成果は以下の通りである。 原(2015a)は、特例有限会社における準共有株式の議決権行使が問題となった、直近の判例の評釈である。非公開会社においては会社法が理念型として想定する株式会社像とは大きく異なる実態があり、また支配株主・経営陣・債権者が相互に絡まり合っており、様々な問題が生起する。そこでは演繹的な考察のみならず、実際の紛争に即した細かな解釈論が重要となり、本成果はこれに一を加えるものである。 原(2015b)は、労働法分野で発達を遂げた法人格否認の法理について、会社法の立場から再検討を試みたものである。会社法人格否認の法理は本来会社法上の不文判例法理だが、労働者の解雇について、法人格形骸化・濫用の2類型に即して分化したものと捉えられてきた。しかしかかる2類型は会社法学では既に支持されておらず、他方で各裁判例の結論には相当程度の合理性があるように見受けられた。本研究では、法人格濫用類型においては偽装解散という労働法上の判例法理を経由して初めて法人格が否認できるのに過ぎず、法人格形骸化との間に本質的な差があるものではない、その限りにおいて会社法・労働法の各議論と判例法理は整合的に説明できると結論づけた。 原(2015c)は未公開株商法について発行会社とその取締役の責任が問われた下級審裁判例の評釈であり、原(2015d)は組織再編手法として近年問題となった濫用的会社分割の詐害行為取消しが認められた最高裁判例の評釈である。原(2016)は、創業家一族の株主と経営陣とが対立する上場会社で注目された直近の高裁判例の評釈である。 これらの検討を下に、高橋ほか(2016)では、株式会社の資金調達について概説書を分担執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原(2015a)は直近の判例評釈であり、研究課題採択時に想定された検討課題ではなかった。特に会社法分野では判例法理の進展が著しく、他方でそれらの多くは早急な検討が必要であるため、検討課題の量は逐次増加する傾向にある。 本年度はかかる理由もあり、研究課題採択時の計画に比すると、法律学以外との間の学際的検討や、国際的な比較がやや後手に回った観があることはぬぐえない。他方、原(2015a)のような検討は、研究期間終了時までに必ず行われなければならないものであり、研究進捗を全体として見れば、優先的に取り組んだことには十分な合理性があると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度は3年間の研究の最終年度であるため、国際比較・学際的検討を集中的に行う期間とする。原(2015a)の公表を優先したものの、これらの関係資料の収集は過去2年間を通じて継続的に行っているため、検討材料は概ね揃っているものと考える。もとより、資料の検討時に追加的な資料収集・調査が必要となることはあるが、これはどのような研究にも共通するものであり、当初から想定されるものである。 他方、今年度公表されるかもしれない国内判例の数は不明であるため、本研究課題の一部として認識し、検討する必要性がどの程度あるか選別することは、重要な課題である。採択課題は純理論的検討にも相当程度のウェイトをおいているため、最終年度は過剰な国内判例の検討を差し控え、現在有する資料の分析・検討を優先することとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度内に予定されていた研究会出席にかかる最終の国内出張が3月31日から4月1日までとなり、次年度支出となったこと、購入予定洋書の一部の出版年度が2016年にずれ込んだことが理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
国内出張は前年度分の1回も含めて本年度予定されているものを全て実施する。洋書についても当初予定通り発注する。
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