最終年度は、株式会社の債権者以外の存在や、債権債務関係以外にも会社との関係を有する存在について、問題意識を拡張して論じた。具体的には、原[2016]では、株主が株主総会提案権を侵害されたとして、会社と取締役に損害賠償を請求したが否定された高裁判例の検討を行った。原[2017a]では、会社に対し報酬の一環としてのストック・オプションを有する役員と、株主でもある会社従業員を素材に、会社と株主・債権者・経営者の属性のうち複数を併有する存在を分析する際の共通点・相違点や、個人・団体による分析視覚が相違する可能性について検討した。原[2017b]では、組織再編における反対株主の株式買取請求権について先行研究を整理・検討した。 本研究の目的は、会社債権者の中にも様々な属性の者がおり、それらを一括して論じるのは、他の会社法学における類型化を通じた緻密な検討に比して、粗きに失するというものであった。3カ年の研究においては、特に会社に対して労務提供する従業員について、研究代表者の既存の検討実績も踏まえて、総論・各論的検討を行った。その過程においては、必ずしも会社債権者という視点に拘泥することはせず、株主・経営者でも複数の属性を併有する存在にも検討対象を拡張した。総論としての会社債権者という存在を描出するに際しては、各論分析を集積することは不可避である。また、地位の併有という観点では、債権者以外の会社関係者に手がかりを得るという作業が有益であることも考えられる。本研究で得られた一連の成果は、会社法の様々な分野に広がったやや総花的なものとなった。しかし、本研究の目的であった、会社関係者について、株主だけではなく債権者も、分析的に論じる必要性があることを示すことには成功したのではないかと考える。
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