研究課題/領域番号 |
26780069
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
藤林 大地 西南学院大学, 法学部, 講師 (80631902)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 情報開示 / 不実開示 / 証券訴訟 / 民事責任 / 証券 / 倒産 / 劣後化 / 金融商品取引法 |
研究実績の概要 |
本年度は、当初の研究実施計画を若干変更し、上場会社の不実の情報開示の抑止を目的とする民事責任制度の在り方の検討に加えて、平成27年度に実施を予定していた会社関係者の利害調整の在り方の検討にも取り組んだ。 第一に、民事責任制度の在り方に関しては、平成26年金融商品取引法改正によって流通市場における不実の情報開示に対する発行会社の責任の性質が無過失責任から過失責任へと変更されたことから、発行会社の故意・過失の意義について、アメリカ法・カナダ法・イギリス法の検討を行った。そして、とりわけカナダ法においては、不実の情報開示の抑止という観点から取締役等の責任は立証責任の転換された過失責任とされており、さらに、取締役等の自然人の有責性を基準として発行会社の有責性を判断するという規律が基本的に採用されていることを明らかにした。また、経営者レベルの自然人の有責性を基準として発行会社の有責性を判断する場合には、従業員に起因する不実の情報開示に対する規律付けが不十分となり得るため、内部統制システムの整備・運用を経営者の有責性の判断に組み込むことが重要となることを明らかにした。 なお、民事責任制度の在り方を検討するための基礎的作業として、金融商品取引法の民事責任規定の立法史についても研究を行い、昭和22年の証券取引法制定時および同23年の全面改正時におけるアメリカ法の継受の実態を明らかにした。 第二に、会社関係者の利害調整の問題に関しては、発行会社が倒産状態に陥った場合における、一般債権者と損害賠償請求権を有する投資者の利害対立の問題を取り上げ、カナダ法における規律について検討を行った。そして、投資者の損害賠償請求権の劣後化を定める同国の連邦倒産法は、一般債権者の利益の保護だけでなく、倒産手続きの円滑化という重要な機能を有していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、上場会社の不実の情報開示の抑止を目的とする民事責任制度の在り方、および、会社関係者の利害調整の在り方を検討するものである。このうち前者については、アメリカ法・カナダ法・イギリス法に関する研究成果に基づいて、現在日本法の解釈について検討を進めている。また、後者についても、現在オーストラリア法およびイギリス法について資料の収集・分析を進めている。したがって、本研究はおおむね順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、まず、平成26年度に研究を完了することができなかった、上場会社の不実の情報開示の抑止を目的とする民事責任制度の在り方について、不実の情報開示に関して取締役等の責任が追及された事件の判例や、法人自体が民事責任を負うことの意義および要件に関する理論的分析および判例を素材に加えて、引き続き研究を進める。また、会社関係者の利害調整の在り方に関しては、オーストラリア法およびイギリス法に関する研究成果も踏まえて、我が国における利害調整の在り方について提言を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額とされている57,208円は、米国の証券訴訟実務に関する書籍が改訂されるため購入を見合わせたことによって生じた残額である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、引き続き日本法および外国法の資料収集のために研究費を使用する。また、調査および学会・研究会への参加のための旅費の支出も予定している。さらに、研究用の文具・消耗品の購入も予定している。
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