研究課題/領域番号 |
26780073
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研究機関 | 埼玉工業大学 |
研究代表者 |
河井 理穂子 埼玉工業大学, 人間社会学部, 講師 (10468548)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 著作権 / 権利制限規定 / 教育目的利用 / フェアユース |
研究実績の概要 |
まず、現在の日本の著作権法における、教育目的利用の権利制限規定の範囲について、整理、検討を行った。ICTを利用した教育の進展を踏まえた、教育目的の著作物利用に関わる著作権法改正は、平成15年度を最後に行われていない。改正では、著作権法第35条において、インターネット等を用いた遠隔授業での著作物利用について著作者の権利が一定程度制限されると規定された。しかし、この規定は同期型の遠隔授業のみを対象としており、いわゆるe-learningと呼ばれる非同期型のものは含まれない。よって依然として、日本の著作権法は、いわゆる対面授業において他人の著作物を利用する場合だけを念頭においた著作権制限規定となっているといえる。 また、著作物の教育目的利用に関して、個別規定だけではなく、包括規定(フェアユース)が存在する米国で、大学教育機関における他人の著作物を含む教材のオンラインストレージに関する裁判例の控訴審判決が出されたため、分析を行った。教育目的の著作物利用に関して、地裁はある一定の基準(例えば、「章を設けていない本と10章以下の本においては10%までの複製、10章以上の本については1章以下の複製はフェアユースの適用を受ける」など)を示したが、控訴審判決ではその基準は否定され、ケースバイケースの判断が必要であるとされた。日本の著作権法へ包括規定の導入が行われば、教育目的の著作物利用にも幅が出て、教育効果の促進にもつながるとする考えもある。しかし、米国の今回の判決からは、教育目的の著作物利用に関しても、結局ケースバイケースの検討が必要であり、包括規定の導入が必ずしも解決につながるとは考えられない。 さらに、アンケート調査におけるアンケート項目について検討を進めた。初等、中等、高等教育と対象の幅が広いため、各教育機関の教育の特徴、方法などを踏まえたアンケート項目をそれぞれ検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
他人の著作物が教育の現場でどのように利用されているかを定量的に調査するという部分について多少の遅れが出ている。アンケート項目の検討に時間が予定よりかかり、また初等、中等、高等教育という全ての教育機関を対象と設定していたためそれぞれ個別にアンケート項目が必要となったため、当初の予定より時間がかかっている。しかし、日本の著作権法、米国の著作権法の教育目的利用の著作権制限の現状調査、比較調査については、特に米国で控訴審判決が出されたため、予定より早く進んでいる。そのため、今後の全体的な進捗に支障が出るほどの遅れではないと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現状の日本の教育目的の権利制限規定において、適用を受けない利用又はその適用がグレーな利用に関する適用の限界を示すために、教育目的利用の現状に関する定量的調査を早急に行う必要がある。既存のデータベースや調査報告書なども利用することで、より早く確実に研究を遂行出来ると考えるため、自己の調査のみならず、既存のデータベース及び調査報告書の検討も行う。また、他人の著作物の教育目的利用について歴史的な調査を実施するには、教育を専門とする者の見識が必須となるため、教育系の研究者の助言をうける予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
アンケート項目の検討に予定以上の時間を費やしてしまったため、アンケートの作成、発送等ができなかった。また、海外調査(ヒヤリング)を行う予定であったが、研究代表者の健康上の理由により、行うことが出来なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に、アンケート調査、海外調査を実施し、その際に使用する予定である。また、次年度分の助成金は当初の計画とおり使用する。
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