研究課題/領域番号 |
26780076
|
研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
山根 崇邦 同志社大学, 法学部, 准教授 (70580744)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 付与後レビュー / 異議申立制度 / 文化コモンズ / Linux / Wikipedia |
研究実績の概要 |
本年度は、当初の予定どおり、1.付与後レビュー制度の拡充に関する研究に取り組むとともに、当初の予定を繰り上げて、3.文化コモンズと著作権に関する研究に取り組んだ。 具体的には、1.として、わが国における特許異議申立て制度、無効審判制度について、(1)法プロセスに関与する主体の多元化、(2)法システムの多層化と相互干渉、(3)法的決定の多段階化と時間的広がり、という3つの観点から研究を行った。これにより、例えば特許異議申立て制度について、(1)特許の有効性判断の主体が特許庁の審判官から一般公衆にまで広がっていること(公衆審査としての色彩)、(2)米国や欧州の特許制度における付与後レビュー制度の拡充の動きが、わが国の平成26年特許法改正の推進力となるとともに、無効審判制度との併存という制度設計の在り方にも影響を与えていること、(3)特許の有効性判断をめぐる権限配分が事前審査から事後審査へとシフトしつつあることが明らかとなった。 また、3.として、LinuxやWikipedia等の事例について、上記(1)や(4)法を捉える視点の多様化、という2つの観点から研究を行った。これにより、(1)Linux OSやWikipediaの記事といった知的成果物の創作主体が一個人ではなく一定のコミュニティであること、(4)これらの知的成果物には著作権という排他的独占権が発生するが、LinuxやWikipediaのコミュニティは、当該著作権をパブリック・ライセンスの枠組と組み合わせることで、知的成果物の自由かつ開放的な創作・利用環境を実現していること(「排他権」のパラドクス)が明らかとなった。 本年度の研究は、知的財産法の現代的課題について(1)~(4)の視点から分析することで、真に論じるべき問題の本質を明確化した点、その成果を論文として公表した点で、大きな意義を有するものと考える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、現代の知的財産法が抱える諸課題を前述した(1)~(4)の4つの観点から分析し、その問題の本質・構造を明らかにした上で、課題の解決を図るというものである。この目的は、「研究実績の概要」で示したように、付与後レビュー制度の拡充および文化コモンズと著作権に関する本年度の研究によって、順調に達成できているものと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、来年度(平成27年度)、2.医療関連特許の問題に関する研究とともに、4.デジタル著作物のオンライン流通と消尽の問題の研究に取り組む予定である。その際には、(2)法システムの多層化と相互干渉、(4)法を捉える視点の多様化、という2つの観点から問題の把握および分析を試みる予定である。そのため、(2)米国や欧州の議論動向を調査するために、海外出張が必要となる。また、(4)医療関連特許の問題を研究の自由、生命倫理、公序良俗の視点から分析したり、デジタル著作物のオンライン流通と消尽の問題を取引費用理論、消費者のアクセス権の視点から分析するために、これらの分野に関する和書・洋書の購入が必要となる。 なお、本年度と来年度(平成27年度)とで取り組む研究の順序を一部入れ替えたが、これは当初の研究計画から予定され明記していたことである。
|