本年度は,①医薬特許と医薬品アクセス問題、②反特許政策の意義と限界、③職務著作の各テーマを取り上げ、(i)法プロセスに関与する主体の多元化、(ii)法システムの多層化と相互干渉、(iii)法的決定の多段階化と時間的広がり、(iv)法を捉える視点の多様化という4つの観点から考察を行った。 これにより、①について、(ii)TRIPS協定が加盟国の講じるべき最低保護水準を定めたことで、多国間フォーラムの場で途上国の医薬品アクセス問題が注目を集め、2001年のドーハ閣僚宣言の採択に至ったこと、その反動として米国主導の二国間FTAを通じたTRIPSプラス条項の流布を招いたこと、(iv)そうした中で、欧米の学説は、医薬品アクセス問題を人権や国際正義の問題として捉え、政治力学に埋没しない議論枠組みの構築に取り組むとともに、(i)NGO団体主導の解決策を模索していることが明らかになった。 また、②に関し、(iv)オランダとスイスは19世紀後半に国内特許制度を廃止等したことで、短期間で先進工業諸国へのキャッチアップを達成しえたこと、(ii)しかし両国の産業発展は外国の特許技術の自由利用に立脚したものであったため、パリ条約の締結以降、他のパリ同盟国から倫理的非難が強まり、20世紀初頭には反特許政策の転換を余儀なくなされたことが明らかとなった。 さらに、③について、(iv)法人等を著作者とするわが国の法制が、団体内で作成される著作物の作成責任を実際の作成者と団体のどちらが負うのかによって著作者を判断する考え方に立脚していること、(ii)この考え方はわが国の出版条例・版権条例に由来するものであり、著作物の現実の作成者のみを著作者とする大陸法系の考え方とは異なること、(i)(iii)両者の調整弁として、わが国の法制は著作物作成時に当事者が契約で規律を選択できるようにしていることが明らかになった。
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