研究課題/領域番号 |
26780081
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
太田 響子 愛媛大学, 法文学部, 講師 (60723963)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 調整 / 縦割り政策 / 共管競合 / 高齢者政策 / 危機管理政策 / イギリス |
研究実績の概要 |
本年度は、第一に、介護、医療、まちづくり等の縦割り政策の発達によって生じる政策領域の重複や空白を解消するために、地域において展開されてきた政策領域横断的かつニッチな取組みについての理論化をさらに進展させた。特に、前年度までに実施した東近江市の事例調査や欧州の研究者との国際セミナー等の討議を経て、社会構造の移行を複数政策横断的かつマルチレベル(ローカル、ナショナル、グローバル)で捉えるトランジション・マネジメント(移行管理)の観点から、日本特有の制度、なかでも中央省庁補助金や出向を契機とした地方レベルの政策分野横断的施策の位置づけを行った。 第二に、理論の一般化を求め日本の自治体における多政策間調整の事例として、初年度に調査を開始した富山市におけるコンパクトシティ政策をさらに掘り下げるため、交通インフラの刷新に着目した既存研究を発展・展開させる形で、都市のハード面(インフラ)とソフト面(高齢者介護や居住政策)との接続についての分析を進めた。 第三に、高齢者施策の新たな潮流として、主に米国で展開されているCCRC(継続的ケアつき高齢者共同体)の日本版の取組み(生涯活躍のまち構想、地方移住促進)の諸側面について、都市の高齢化の問題を抱える特別区の意向調査および日本版CCRC施策を推進している埼玉県秩父市の現地調査等を行い、中高年の移住が基礎自治体単位で運用される介護保険制度にどのような影響を与えるかを分析した。 第四に、高齢者分野以外の様々な政策分野における多政策間調整の研究として、危機管理・防災政策における調整と組織編制の実態について、海外先進制度の調査を行い、特に中央政府の省庁間、中央地方政府間、官民間における調整制度の抜本的変革が進められているイギリスの危機管理制度について分析し、査読付き論文として刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、研究代表者が所属機関を変更したことに伴い予期せぬ引継ぎ業務・新規業務の発生があったため、本研究課題の進捗がやや遅れることとなった。多政策間調整の理論研究の一部として計画していた博士論文の公刊については、加筆修正作業がやや遅れている。また、介護保険制度をめぐる詳細な歴史研究についても今年度は十分に行えていない。一方、国内外における、多政策間調整についての地方レベルの新奇的取り組みについての事例研究および比較研究に関しては、順調に調査および研究実績の発表が行われている。また、多政策間調整に関する研究会およびネットワーク構築についても、若手研究者による「行政共同研究会」(行政学・地方自治の研究者)への参加・研究報告・運営により広く意見交換を行っているほか、特別区協議会を通じた特別区職員との研究会への参加により、実際に高齢者施策を担う行政の現場の情報を幅広く収集することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き研究計画の内容に沿って推進していく方針であるが、日本国内の高齢者介護施策をめぐる調査については、中央省庁レベル(主に厚生労働省老健局)の実態調査および歴史研究に重点を置いて進める。特に1980年代に始まる介護保険制度の制定過程およびその後の数度の法改正における政策プロセスの詳細研究を行う。また、詳細な質的研究を行った東近江市に続き、富山市の事例についても現地調査を含む詳細な質的研究を実施する。また、海外調査、他事例との比較研究についても引き続き実施しながら、トランジション研究に立脚した多政策間調整の理論化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外調査を実施しなかったため。また、史料やヒアリングデータの整理について人件費を使用しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、当初計画の内容に加え、現地調査(国内・海外)、史料やヒアリングデータの整理作業を行う。
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