平成28年度では、当初の研究計画にもとづき、日本選挙学会において「政党間イデオロギー差異と投票参加行動に関する国際比較分析」と題する学会報告を行った。同研究は、27年度の行った研究の土台のうえに立ち、それをさらに発展させるものである。27年度では「政党間のイデオロギー距離が大きい(と認識されている)ほど、有権者の投票参加が促される」というアンソニー・ダウンズの合理的投票者モデルの理論的含意について、2000年代の日本の有権者調査データを用いて検証を行っていた。28年度ではこれをさらに発展させ、「Comparative Study of Electoral Systems: CSES」を用いて、国際比較の観点からダウンズ理論の妥当性検証を行った。従来の研究では、「政党システム分極度」(政党間のイデオロギー距離)指標を、国ごとに値の固定されたシステムレベル変数として扱っている。おそらくはその結果として、政党システム分極性が有権者の投票参加行動に直接的な影響を与えているという明確な証拠は得られてこなかった。本研究では個人レベルで値の変動する(主観的な)分極度指標を新たに考案し、これを利用することにより、ダウンズ理論の実証に成功している。 また28年度には、「政治参加の社会経済的格差」というテーマで新たな研究の進展があった。CSES等を用いてマルチレベル分析を行い、所得による投票参加行動の差を国際比較の観点から実証的に検討した(松林哲也大阪大学准教授との共同研究)。この研究の結果、(1)世界の多くの国で所得による参加格差が確認できること、(2)所得格差の大きい国では比較的所得の効果が小さいことの2点が明らかになっている。 今後は以上2点の研究成果をまとめ、海外の政治学学術誌に投稿を行っていく。
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