平成28年度は前年度までの成果を踏まえ、憲法パトリオティズムの特徴を、他の政治理論、とりわけ熟議デモクラシーおよびリベラル・ナショナリズムとの比較考量によってさらに別の角度から解明する作業を行った。具体的には、憲法パトリオティズムの考え方が熟議デモクラシーの論理とどのようなかたちで相互補完の関係にあるといえるのか、また、憲法パトリオティズムとリベラル・ナショナリズムとのパースペクティヴの両者の相似点と相違点は何なのかを整理するための資料解読及び分析を行った。 上記研究のための論点整理として、北京理工大学学術交流会の招待講演で「政治と神話――あるいは政治の両義性について」と題する報告を行った。ここでは主として、憲法パトリオティズムとリベラル・ナショナリズムの性質上の相似と構造上の相違について考察し、今後の政治的アイデンティティのあり方について意見交換を行った。この報告をとおして、憲法パトリオティズムの形式合理的な思考様式の背後にある人間観の現代政治理論における妥当性を明示し、憲法パトリオティズムが現代デモクラシー論において必要とされる根拠を明らかにしたが、同時にリベラル・ナショナリズム的な論理への有力な反論をより積極的に提起することの必要性を認識した。 そのため、憲法パトリオティズムの秩序構想を現代政治理論のコンテクストに関連させつつ定位するという最終的な研究目的を取りまとめるにあたって、今一度この点について考察し改めて報告を行う機会が必要と判断し、その準備作業を行った。この報告は平成29年6月に天津師範大学学術交流会の招待講演において行う予定となっている。また、これと並走するかたちで、本研究の取りまとめとして学術論文の作成を行ったが、これについては予定されている報告を踏まえたうえで加筆修正して公表する予定である。
|