研究課題/領域番号 |
26780088
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研究機関 | 釧路公立大学 |
研究代表者 |
菅原 和行 釧路公立大学, 経済学部, 准教授 (90433119)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 行政学 / 官僚制 / 公務員制度 / 応答性 / 政治任用 / アメリカ |
研究実績の概要 |
本年度は下記の論文を執筆し、現代の米国連邦政府における官僚制の中立的能力と応答的能力との関係について考察した。ここでいう中立的能力とは、効率的・生産的な行政活動の遂行に不可欠な能力であり、おもに職業公務員の専門的知識・技術・経験に依拠するものである。一方、応答的能力とは、行政府の首長が自らの意向を行政組織の行動に反映させるために必要な能力であり、おもに首長に忠実な政治任用者や諮問機関の存在に依拠するものである。 本論文では、米国連邦政府において二つの能力は短期的には衝突と調和を繰り返しながらも、歴史的には一方の発達が他方の発達を誘発し、相互に累積的に発達していくような、螺旋型の発達過程を辿ったことを指摘した。そのうえで、現代の米国では大統領による応答的能力の過度な追求を背景として、中立的能力を担う行政部門が政治化の危機に晒されている状況を明らかにした。この点に関しては、とくに政治任用過程の政治化や、政治任用者を職業公務員の身分に転換する「バロイング」の慣行を例にあげて論じた。 そもそも応答的能力とは、官僚制の持つ中立的能力を政治家の意向に沿うよう方向づける能力であり、その意味では中立的能力の存在に依拠したものである。しかし、近年の米国連邦政府における応答的能力の追求は、しばしば中立的能力を犠牲して行われる傾向が見られる。本論文では、応答的能力が中立的能力を浸食し、それを代替していくような官僚制のあり方は根本的な自己矛盾を抱えており、いずれ官僚制が機能不全に陥る危険があることを指摘した。
菅原和行「アメリカ連邦官僚制における中立的能力と応答的能力の動態―職業公務員と政治任用者に対する政治的要請の変化を中心に―」『釧路公立大学紀要 社会科学研究』第27号、2015年3月、39-55頁。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、先進各国において行政国家化が進行し、官僚制が一層の自律化を強めるなか、政府の政治的・社会的応答性はいかにして確保されるべきか、またそこにはどのような課題があるのかという点に関して、とくに米国の連邦政府を事例として考察するものである。こうした研究課題に取り組むにあたり、本年度は政治的応答性の動態に焦点をあて、政治任用の過程や、政治任用者と職業公務員との関係を中心に考察した。研究の過程では、米国と日本国内の各機関において研究に必要な資料を収集するとともに、関連分野の専門書や学術論文によって近年の研究動向を調査、分析した。これらは本研究課題全体の基礎を構築するものである。本年度はその研究成果の一部を先述の論文として発表しており、研究はおおむね計画通りに進行している。 一方、本年度の研究では、現代の米国連邦政府に関する事例研究に止まっており、先進各国における官僚制の自律化と応答性の確保との関係について、より一般的な見地から考察するまでには至らなかった。そのため、今後はこうした点も含め、本研究課題の行政学研究としての意義を十分に検討する作業が必要である。とりわけ、官僚主導や割拠主義が議論される日本の政府においては、自律化した官僚制に対する応答性の確保は早急に議論すべき課題である。今後は米国連邦政府に関する事例研究を行うなかで、現代日本の官僚制にも一定の示唆を与え得るような知見が得られるよう、意識して研究に取り組みたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、第一に、政治的応答性に焦点をあて、大統領府と省庁組織の関係を考察したい。大統領府が創設された背景には、行政課題の複雑化に対し、スタッフ機関の設置によって大統領の政策形成能力を高める必要があったことに加え、大統領が肥大化した省庁組織の影響力に対抗する必要があったことがあげられる。現代の大統領府は多数の部局と職員を抱える巨大な官僚組織へと発展し、しばしば省庁組織に代わって各分野の政策決定において主要な役割を担うようになった。そのため、大統領府と省庁組織との関係や、大統領府の相対的な影響力の増大を明らかにすることは、大統領への政治的応答性の増大を考察するうえで重要となるであろう。今後の研究では、行政管理予算局や国家安全保障会議などを事例として、大統領府と省庁組織との関係から政治的応答性の動態を明らかにしたい。 第二に、大統領への政治的応答性の問題に加え、社会を構成する各集団への応答性、すなわち社会的応答性の問題についても考察したい。こうした応答性はしばしば政府の人事に各集団の代表性を保障する形で確保され、とりわけ公民権運動以降はマイノリティ集団の人々が政府の官職に積極的に雇用された。一方、1970年代末より、最高裁判所が積極的差別是正措置に否定的な判決を下すようになり、それを受けて連邦政府も人種を基準とした人事には消極的になった。こうした行政機関における人種的多様性の問題に関しては、従来より代表的官僚制論のなかで論じられ、多くの先行研究が存在する。今後の研究では、こうした先行研究の成果も踏まえ、積極的差別是正措置の実施が困難となった現代において、連邦政府は社会的応答性の意義をどのように認識し、どのような取り組みを行っているのか、またその取り組みは自律化した官僚機構とどのように関係し、そこにはどのような課題があるのかなどの問題について考察したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の国内旅費に関して、当初計画では夏季の出張を予定し、その時期の平均的な航空券価格で算出していたが、出張の時期が秋季に変更になったため、航空券価格の差額が次年度使用額として生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は翌年度分の国内旅費と合わせ、国内資料収集の旅費として使用する。
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