最終年度は主に、南米諸国およびメキシコの「ポスト移行期の正義」にかかわる研究成果の執筆に従事した。その一部として、アルゼンチン、メキシコ、ペルーにおける過去の人権侵害をめぐる取り組みに関する論考を発表した。3カ国の事例からは、「記憶」の保存と市民への発信を進めるうえで、行政府と市民団体の協力が重要となっていること、とりわけ、行政府が「記憶」事業に積極的である場合には事業がきわめて迅速に進められるが、政権交代後の事業の継続を保証するためには下位の自治体や市民団体を巻き込んだ枠組み作りが欠かせないことが示唆された。 加えて、より広く人権にかかわる問題として近年重要性を増しているメキシコの麻薬紛争と自警団運動についても考察を進め、学会にて研究成果の報告を行った。また、雇用の柔軟化の弊害が長らく指摘されてきたラテンアメリカの労働政策についても取り上げ、メキシコの労働法制改革に関して政策形成の側面から分析を行った。研究成果は研究叢書所収の論文として発表した。 本研究は長期的には、メキシコを中心とするラテンアメリカ諸国の人権をめぐる政策形成について、複数の政策領域についての知見を統合したモデルを提示することを目的としているが、その重要な一部をなす成果を得られたと考えている。
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