研究実績の概要 |
本研究の目的は、デモクラシー理論における規範性の問題について再検討することである。近代デモクラシーは異質な二つの原理、すなわち、差異と自由を重視する「自由主義的原理」と同一性と平等を強調する「民主主義的原理」から構成されている。しかし現代民主主義論、とりわけ「ラディカル・デモクラシー論」は、このうち後者の民主主義的原理を過度に強調してきたために、自由主義的な価値観と対立し、何を望ましいとするかの「規範性」を喪失するというジレンマに陥っている。本研究はこの問題を解決するべく、民主主義と規範の問題に取り組むものである。 本年度は民主主義における規範性の問題を正義概念と接続することで解決しようとするナンシー・フレイザーの試みを検討した。そこから明らかになったことは、フレイザーの試みが、民主主義の可能性を著しく制限することによってのみ成立するというからくりであり、そのかぎりで彼女の解決策には多大な問題があることを指摘した。研究代表者は代案として「戦略」という概念に着目し、戦略的な振る舞いのみが、再度基礎付け主義に陥ることなく、民主主義に規範性を担保しうると結論付けた。この成果の一部は、論文「デモクラシーと規範」(南山大学社会倫理研究所, 2014)および”Strategy and the Political” (in Thinking the Political: Ernesto Laclau and the Politics of Post-Marxism, Routledge, 2015)として執筆された。 また本年度は研究協力者らとともに研究会を立ち上げ、現代民主主義理論の問題点とその解決策について議論を重ねてきた。来年度以降もこの研究会をベースに民主主義と規範のあり方について研究を続けていく予定である。
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