政治理論をもっぱら規範的な当為の探求と見なす一般的な理解に対して、「リアリズム政治理論」の批判的検討を通じ、非規範的な政治理論のあり方を探るというのが本研究課題の目的だった。そのため、最終年度はまず、(1) 初年度に行った、ゴイス、ウィリアムズらによって提唱された政治的リアリズム論の再検討をさらに進め、成果を査読誌(『年報政治学』)に投稿・刊行した。当該論文では、ゴイス、ウィリアムズらの「政治的リアリズム」論に、従来の規範的政治理論の理想主義、道徳主義を批判するという大きな意義を見出しつつも、かれらの議論には「現実政治」をどう規定するかという点に曖昧さが存在しており、その曖昧さがリアリズム政治理論の方向性を混乱したものにしていると論じた。そこで、(2) この混乱から、ひとつの方向性を発展させる方策として、闘技デモクラシー論における「政治的なもの」の考察に注目した。通常、アゴーン(闘技)の規範的擁護を行っているとみられる闘技デモクラシーだが、「政治的なもの」の動態に注目するという非規範的な方向性も存在しているのではないか、という問題関心のもと、闘技デモクラシー論の意義を再構成する論考を共著(『原理から考える政治学』)の一章として発表した。さらに(3) 非規範的な理論のあり方として、哲学者ドゥルーズが初期に提唱した「ドラマ化の方法」に注目し、その政治理論的な含意を論じた論考を国内外で報告し、学会誌(『政治思想研究』)に発表した。ドゥルーズは前期の主著『差異の反復』の執筆時、哲学の方法として、「何?」という本質を問うプラトン主義的な方法に代えて、「いかに」「いつ」「誰が」といった問いを立てる方法を提起していた。同論考では、この方法に注目しつつ、従来問われることのなかった『差異と反復』の政治的射程を明らかにした。これらの研究を通じ、当初の研究課題に一定の目処をつけることができた。
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