研究課題/領域番号 |
26780099
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
瀬川 高央 北海道大学, 公共政策学連携研究部, センター研究員 (10466419)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 核軍縮交渉 / 対外情報分析 / 対外政策広報 / 日中関係 / 日ソ関係 / 反核平和運動 / インテリジェンス / 平和攻勢 |
研究実績の概要 |
本研究は1980年代の日中間の対ソ共同歩調とソ連による対日批判の問題に焦点を当て、日本の情勢認識や政府広報が軍縮外交に果たす役割を分析することを目的としている。 平成27年度は、米中関係、日ソ関係、対ソ情勢認識、サミットにおけるソ連問題の扱いに関する史料解析を進めた。 課題の第一は「米ソが核兵器を50%削減した後で、全核保有国による交渉で残り50%の削減を行う」という中国の考えに日米が理解を示した背景を解明することであった。これについては、中国がソ連による核増強を懸念し、ソ連に対して中距離核削減を求める点で日米と利益を共有したことを首脳会談記録から明らかにした。また、日米政策企画協議録を精査した結果、米側は米ソ協定の下で中距離核が廃棄されるべきとの原則を中国が支持したのを歓迎し、中国がNATOと利益を共有することに期待を示したことが明らかになった。仮に日米が中国の意向を否定してその核削減を議題とすれば、ソ連が主張する英仏核削減を首肯することになりかねないという判断が日米間で働いたものと考えられる。 第二は、核の傘に依存して核削減を求める日本を軍国主義と呼んだソ連の批判と、これに対する日本の対応を明らかにすることである。これまでの調査から、外務省はソ連の対日批判や平和攻勢が日本世論に与える影響は少なくないと憂慮していたことが判明した。特にソ連が西側反核運動に支援を与え、平和勢力を育成して西側の政府と世論を分断しようとしたことに対し懸念が示された。こうした認識を踏まえて史料を渉猟した結果、1980年代初頭の国連軍縮特別総会に際し、外務省が国内の平和団体や反核運動、NGOをソ連の手に利用させないようにするため、軍縮総会に参加する日本のNGOを外務省が支援する考えがあったことが明らかになった。他方、核軍縮に関する政府広報については期待された効果が上がらなかったことも史料から明確となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度の研究では、ソ連の平和攻勢・情報活動に関する外務省及び米国政府の認識、日米間でのソ連の対日政策の扱いについて検討するため、外交史料館での史料閲覧(5月、7月、9月、2016年1月)、米国国立公文書館での史料複写(2016年2月)を行った。史料公開に関しては計画通りに進んでいるものと、公開に時間を要しているものがあるが、27年度の調査で41冊の記録を閲覧した。 なお、外務省から外交史料館に80年代の外交記録の移管が本格的に開始されたことを受け、調査期間を延長する必要が生じた。これは「要審査」と記された各記録の公開審査に2~6か月の時間が必要であり、さらに閲覧後の解析に数週間を要するためである。 本研究の成果の一部を著書『米ソ核軍縮交渉と日本外交 INF問題と西側の結束 1981-1987』にまとめ公刊した。本研究の成果を反映させた箇所は、①ソ連による対日世論分断、②対ソ共同歩調の中での中国の核兵器の扱い、③ゴルバチョフの平和攻勢、④INF条約後のソ連の世論分断に対する日本の対応の4つである。 また1980年代のソ連による平和攻勢を分析するための前段として、論文「ソ連の平和攻勢に対する日本外務省の情報分析と対応-1970年代の「アジア集団安全保障構想」を事例に」を執筆し『年報 公共政策学』に投稿した。ソ連が提案した集団安保構想はブレジネフ政権期に登場した平和攻勢の一つで、論文ではその形成過程と日本を含む周辺国の反響と認識を明らかにした。本稿を通じ外務省の対ソ情報収集と分析過程、平和攻勢への対応を解明した。今後、1980年代に浮上したゴルバチョフのアジア版CSCE構想に対する日本側の認識を考察する上で、本論文における分析手法を応用できると考えている。 以上の通り、史料解析について情報公開に時間を要する点でやや遅れが生じたが、研究成果の発表はおおむね順調に進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究においては、外交史料館での一次史料の渉猟を継続し、国内外で収集した史料の翻刻と解析を進める。 なお、アメリカ国立公文書館で複写した史料のうち、国務省作成のWorld Peace Council: Instrument of Soviet Foreign Policy(1982年4月)やSoviet propaganda campaign against NATO(1983年10月)、CIA作成のWorldwide Active Measures and Propaganda Alert(1987年11月)などの国家情報評価書の内容をより客観的に理解するため、これまでに収集した海外文献(Routledge社刊行のStudies in Intelligence series)を再読した上で慎重に解析を進めていく予定である。 こうした作業と並行してこれまでの研究を取りまとめ、学外の研究会での報告や日本国際政治学会の学会誌『国際政治』への論文投稿を通じて積極的に成果を発信していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額94,454円は、「現在までの進捗状況」で詳述した通り、国内での史料調査の期間を平成28年度まで延長する必要があり、調査の完了に要する経費を繰り越したために生じたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額94,454円は、平成28年度に国内での史料調査を完了するための「旅費」及び「物品費」(図書)として使用する予定である。
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