・本研究では、1980年代における日中間の対ソ戦略上の協力とソ連による対日批判の問題に焦点を当て、日本(および米国)の対ソ情報分析や政策広報が核軍縮をめぐる外交に果たす役割について調査・分析することを目的とした。平成28年度は、前年度までに行った国内外での史料収集を踏まえて、核軍縮問題をめぐるソ連の対日・対米欧批判(ソ連の西側社会に対する世論分断工作を含む)、日本外務省および米国務省・中央情報庁がまとめた西側での反核・平和運動に関する部内資料・広報資料・インテリジェンス資料の解析を進めた。 ・これらの史資料解析の成果をまとめ、論文「欧州平和運動に関する米国のインテリジェンス分析―国務省、ACDA、CIAによる評価を中心に―」を執筆し、『年報 公共政策学』に投稿した。本論文では、反核運動の最盛期(1981―83年)について、運動拡大の過程と特徴を描出した。とくに、西側の一部の平和運動に対する東側からの人的支援に言及した米側の情報分析報告書を紐解き、ソ連による対西側影響化工作の一環としての平和運動の内実を明らかにしようと試みた。とくに世界平和評議会(WPC)を軸とする反核運動が東側の核政策・核配備を容認し、西側のそれを一方的に非難する性格を帯びていたため、その性格を問題視した活動家を中心に、WPCが西側世論に許容されなくなっていった過程を具体的に論じた。 ・本論文作成を通じて、反核運動やプロパガンダを通じたソ連による西側世論の分断、すなわち日本と西欧諸国の保守派(核抑止政策容認)と進歩派(核配備反対)の分断が成功しなかった要因として、上記の要因の他に、西側からの広報活動がどのくらい直接的な効果を持つものであったのかを今後明らかにするための重要な知見を得た。 ・米側史料の分析の確かさを比較検討するため、ソ連から西側に流出したMitrokhin文書Ⅰの翻刻を進めた。
|