研究課題/領域番号 |
26780100
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
五十嵐 元道 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 助教 (20706759)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 対反乱活動 / 人道主義空間 / 人道支援活動 / 平和構築 / 平和維持活動 / アメリカ / エルサルバドル / アフガニスタン |
研究実績の概要 |
本研究は、冷戦期から冷戦後にかけてのアメリカの対反乱活動の展開に伴って、紛争地域における人道主義空間がどのように変容してきたのかを歴史的に検討し、対反乱活動が構成する権力の構造を明らかにするものである。そこで本年度は、当初の計画通り、冷戦期から冷戦後に至る対反乱活動の変遷を分析した。そこで、これに関する一次資料・二次資料の収集と分析を行った。さらに次年度に先駆けて、人道主義空間に関する理論的研究も開始した。 こうした研究の結果、次のことが明らかになった。第一に、人道主義空間を考えるうえでは、「法-言説的空間」と「地理-物理的空間」を区別する必要があること。また、「局地的領域」と「国際的領域」の位相の区別も必要であることが分かった。そして、これらからマトリクスを作成し、対反乱活動の展開に伴う人道主義空間の変容を分析するべきであることが分かった。第二に、近代的対反乱活動の先駆けであったエルサルバドル紛争では、人道主義空間の基底をなす「文民/戦闘員」の区別そのものが「闘争の場」になっていたことが判明した。すなわち、紛争地域における文民/戦闘員の区別はそもそもアプリオリに存在するのではなく、様々なイデオロギーや権力の相互作用のなかで構成されていた。そして、この区別が人道主義空間の成立につながり、そこに反映された諸権力が歪みの源になっていた。それを踏まえて研究を進めた結果、冷戦後のアフガニスタン紛争においても、同様の現象が生じている可能性が見えてきた。第三に、アメリカを主体とした対反乱活動は、エルサルバドル紛争での活動から今日の活動に至るまで、人的にも政策論的にも質的変化よりは、むしろ量的変化が強く見られることが判明した。 以上の研究結果から、対反乱活動が展開されている地域では、人道支援活動そのものが局地的領域における「闘争の場」の構成に深く関係していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、冷戦期から冷戦後にかけてのアメリカの対反乱活動の展開に伴って、紛争地域における人道主義空間がどのように変容してきたのかを歴史的に検討し、対反乱活動が構成する権力の構造を明らかにするものである。そのうえで、本年度の研究は、対反乱活動と人道主義空間(特に本年度は前者に重きを置く)に関する先行研究全体を把握し、個別の事例に関する一次資料を収集・分析することを目標にした。 この目標は十分に達成できた。第一に、近代的な対反乱活動の端緒とも言うべき、エルサルバドルの紛争事例について全体像を把握することができ、そのうえで、本事例の対反乱活動と人道主義空間に関する一次資料(アメリカ政府の政策文書や、エルサルバドルの政府関係者のインタビューをまとめた文書、人道支援団体の文書など)を収集し、分析を行った。第二に、アフガニスタン紛争における対反乱活動と人道主義空間に関する二次資料を網羅的に分析した。第三には、次年度に集中的に実施する予定であった人道主義空間に関する理論的研究に前倒しで着手することができた。欧米で研究の進展が著しいこの領域の最新研究を分析したうえで、本研究の立ち位置が固まりつつある。 本年度の研究目標を達成した結果、本研究の大枠と具体的な仮説を設定することに成功した。近代的な対反乱活動の発展に伴い、人道主義空間は紛争アクター間の「闘争の場」の一部になった。それは地理-物理的領域における場というだけでなく、誰が殺害されるべきなのかを決定する法-言説的領域における場でもある。この仮説を裏付けるより一層のデータを収集すべく、今後の研究に必要な一次資料およびそのアクセスの方法までが相当程度具体的に把握できた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度に導き出した仮説を実証すべく、より多くのデータを収集することが課題となる。具体的には、本年度に作成した人道主義空間の理論的枠組みをさらに発展させるとともに、個別事例であるエルサルバドル紛争と、アフガニスタン紛争のなかで、どういった人道主義空間がどのように構成されたのか、二次資料および一次資料の分析から明らかにする。そのために、対反乱活動と人道支援活動に関係する諸アクターの関連文書をより広く収集し、分析する必要がある。例えば、関係するNGOなどの人道組織や国連などの国際組織が公表している文書を継続して収集・分析する。さらに、この点に関するアメリカ政府などが公開している資料を継続して収集・分析する。すでに本年度、エルサルバドル紛争に関するこれらの資料は、相当程度収集できている。また、アメリカ政府などが公開している資料も収集を進めており、未公刊資料の所在も把握できた。次年度の課題は、アフガニスタン紛争の人道主義空間に関する資料の収集であり、これにより一層の力を入れる必要がある。アフガニスタン紛争は一種の「動く標的」であるため、情報の収集と分析には慎重にあたる必要がある。また、当該地域での対反乱活動と人道支援活動は多様で相当数あるため、範囲を明確に定める必要がある。そこで近年、急速に発展している現地調査をベースとしたタリバン研究を踏まえつつ、アメリカの地域復興支援チーム(the Provincial Reconstruction Teams)の活動に焦点を絞り、データの収集と分析を行う。
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