本年は、これまでの調査・分析をさらに進展させ、研究課題について結論を出すことができた。本研究の課題は、人道主義空間が近年の対反乱活動の展開の影響を受けて、どのように変容したのかを明らかにすることだった。 本研究によって次のことが明らかになった。第一に、人道主義空間は冷戦後に突然変容したのではなかった。紛争地域における人道主義活動の歴史をたどれば、脱植民地化後の第三世界での紛争が大きな転換点だった。内戦に直面した人道主義活動は、傷病兵や文民への支援活動と国際人道法違反の監視活動に分離し、中立・不偏もそれぞれの領域で意味が異なった。 第二に、冷戦後に変容したのは、人道支援活動における治安維持のための軍隊との関係だった。平和維持活動では、紛争後社会の再建という目的の下、軍隊と人道支援組織は協力関係を深めた。ジレンマを引き起こしたのは、対テロ戦争の開始だった。対テロ戦争は、一部で紛争後社会の再建を含みつつも、一方で、アメリカを中心とする有志連合諸国が紛争の中心的アクターとして、テロリストと思しき人物や集団の殺害を次々と実施するものだったからである。 第三に、人道主義と対反乱活動の関係を歴史的に通観すると、人道主義空間が国家から徐々に自立してきたことが判明した。人道支援活動に関しては、冷戦終焉後、しばらくは平和活動のなかで距離を縮めたが、その後、再び緊張関係を強めた。国際人道法の監視活動に関しては、一貫して国家からの自立の道を歩み、活動が強化されてきた。 以上の研究成果については、本年度、学会報告などで複数回にわたり、発表することができた。ただし、まだ十分に論文として発表することができていない。すでに公募論文として査読中のものもあり、随時公表していく予定である。
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