研究課題/領域番号 |
26780105
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研究機関 | 名古屋学院大学 |
研究代表者 |
鈴木 隆 名古屋学院大学, 法学部, 准教授 (90438739)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 地域統合 / 東アジア / 東南アジア / ASEAN / 人間の安全保障 |
研究実績の概要 |
本研究は、新たなアジェンダへの地域的対応にとって不可欠な東アジア地域協力の制度化に向けた政策研究を前進させるため、既に地域協力の制度化で成功を見ているASEANを起点とした基礎的研究を展開することから始め、次いでASEAN地域統合のモデルを東アジア地域に拡大、援用して、新たな東アジア地域統合のモデルを構築すること、および災後日本とアジアとの共生の道を明らかにすることを目的としている。 初年度(2014年度)は、ASEANの統合過程に関する国内外の主要な文献を渉猟し、ASEAN地域統合の現在を機能主義、社会構成主義、さらには人間安全保障の視座から再検討した。また、定期的な研究会に参加し、東アジアの周辺地域や、統合の先進例である欧州地域に関する新たな知見を得つつ、東アジア地域統合の現在を相対的に検討し、併せて本研究の次年度に向けた方向性を確立した。 2015年3月には、シンガポール国立図書館にて一次資料を渉猟したほか、シンガポール社会家庭開発庁の高官と長時間にわたって意見交換し、ASEAN諸国の地域統合に向けた外交政策に関する、より立体的で複合的な分析を進めた。 初年度は、理論研究(文献)の結果、国家が主権の一部を放棄し、他国との制度的な協力に踏み切る背景には、脆弱性やリスクといったネガティブなファクターが作用している側面を明らかにし、実証研究(現地調査)の結果、ASEAN諸国の共有する潜在的リスクがASEAN地域統合を下支えしている構造を明らかにした。 こうした本研究の中間的成果は、国際シンポジウムにおいて口頭発表されたほか、2014年度中に発表された学術論文にも部分的に反映されている。次年度(2015年度)は、初年度に得られたASEAN地域統合のモデルを東アジアの地域枠組みに拡大、援用し、位置づけ直すという知的作業を現状分析と合わせて実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の所期の目的を達するため、本研究は、国益を至高の価値とする国家が、主権の一部を放棄し、他国との制度的な協力-地域統合―に踏み切る構造について、おおよそ三つの方法によって明らかにしようと試みる。初年度は、まず第一に、ASEAN地域統合の現在を機能主義、社会構成主義、さらには人間安全保障の視座から再検討し、とりわけ人間安全保障の領域で生じる諸問題が、現在のASEAN地域統合にどのような影響をもたらしているのかを再検討した。そのうえで第二に、実証的現地調査研究を実施し、脆弱性やリスクの視点から、ASEAN地域統合のモデルを再構築する作業に従事した。 また、本研究を相対化できる広い視野を得るため、定期的な研究会に出席し、東アジアを取り巻く状況や統合の先進地域としての欧州の現在についても意見交換を行ったほか、本研究の途中段階において明らかになった研究成果を国際シンポジウムにおいて発表し、質疑応答などを通じて本研究の問題意識をより深めた。 次年度は、第三として、初年度における理論研究(文献)と実証研究(現地調査)との成果の融合によって導出されたASEAN地域統合のモデルを東アジアの地域枠組みに拡大、援用し、そのモデルの他地域への妥当性、および東アジア地域への適用可能性を精査すべく、さらに実証的現地調査研究を進めてモデルの精緻化を図る計画である。このように、おおよそ当初の予定通りに研究は進捗しており、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究の所期の目的を達するため、初年度の研究成果として得られた脆弱性やリスクを軸とした地域統合のモデルを東アジアの地域枠組みに拡大、援用し、位置づけ直すという知的作業を、理論研究と実証研究とを同時並行しつつ実施する。 初年度に引き続き、海外の主要な文献を渉猟するほか、定期的な研究会に出席して本研究課題をよりフォーカスするように意見交換を活発に行う。それにより、研究会参加者の意見、評価を踏まえて研究内容をブラッシュアップし、研究内容のステップアップのモメンタムを得ることを意図している。 また、初年度の研究成果として得られた地域統合のモデルを広域の東アジアに適用することの妥当性や可能性を確認するため、東アジア諸国での実証的現地調査研究を実施し、その結果をフィードバックすることで、東アジア地域全体を包含するような広域的な地域統合モデルの可能性を検討して、研究の完遂を試みる。さらに、本研究の成果は近日中に専門書として公刊することを目指している。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、学務等の事情によって海外現地調査の日程を変更したことや日程調整がつかずに予定していた学会への参加を見送ったこと、さらには当初購入を検討していた図書・資料の一部が借り入れ可能であったことや海外の古書店において安価に入手できたこと等により、当該助成金が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、海外現地調査や学会・研究会への出席を予定通りに実施するほか、書籍購入代として当該助成金を使用する計画である。
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