本研究は、グローバル化を背景とする新たなアジェンダの顕在化を端緒とし、国境を越えた主権国家間の協力と、それに伴う地域的対応とが不可欠になっている現状を踏まえ、東アジア地域協力の制度化を前進させるための諸条件を明らかにし、東アジア地域統合のモデルを構築することを目的とした。具体的には、既に地域協力の制度化で成功を見ているASEAN地域統合の研究から始め、そのうえでASEAN地域統合のモデルを東アジア地域に援用して、新たな東アジア地域統合モデルを考究しながら、併せて日本とアジアとの共生の道を明らかにしようと試みた。 最終年度となる28年度は、未達となっている部分を埋めるべく、ASEAN統合に関する理論研究、およびシンガポールでの現地調査研究で得られた知見をもとに、東アジア地域統合モデルの構築に研究の主眼を置いて取り組んだ。主に理論研究の面では、東アジア地域統合の現在を機能主義、社会構成主義、人間の安全保障といった視点から再検討する作業を継続しつつ、これまでの研究成果として得られた統合モデルの精度を高め、かつ実際への適用可能性を確認するため、関係学会や研究会において積極的な情報交換を行うなどし、モデルの修正と再構築を繰り返した。とりわけ、東アジア地域統合にとって負の要因となりかねない中国の海洋進出や北朝鮮による核・ミサイル実験などに関して、米中対峙、米朝対峙の実際などを考慮し、域内における国家間の力学変化が地域統合に与え得る影響などについても改めて検討した。また、28年度は、新たに「ポピュリズム」を検討事項に加え、東アジア域内でも確認できるポピュリズムの台頭が、東アジア地域統合に与え得るインパクトについて、欧州統合の現在と比較検討しながら研究を進めることもできた。 こうしたことから、28年度は、本研究課題の所期の目的を達する形で全体の研究を進捗させることができたと考える。
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