研究課題/領域番号 |
26780107
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
村上 友章 立命館大学, 立命館グローバル・イノベーション研究機構, 研究員 (80463313)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 北洋漁業 / 日ソ関係 / 高碕達之助 / 鮎川義介 / 蟹工船 |
研究実績の概要 |
本年度は「高碕達之助文書」(戦前)の資料整理とその読解・分析を行い、日魯漁業・共同漁業・林兼商店が三つ巴となって企業間競争を繰り広げた、1930年代の北洋漁業の実相の解明を進めた。その結果、高碕が率いた東洋製罐が「製缶業」という独自の立場から、新たな技術開発(蟹工船および沖取漁業)を進めた共同漁業、林兼商店および中小の漁業家らを強力に支援して、それらが北洋漁業を独占していた日魯漁業に対抗する上で極めて重要な役割を果たしていたことを明らかにした。蟹工船と沖取漁業の登場が北洋漁業の飛躍的な隆盛を支えたことをふまえれば、従来、注目されてこなかった製缶会社(東洋製罐)が日本水産業に果たした役割は、再評価されるべきであろう。 本研究では、さらに高碕達之助が、鮎川義介率いる共同漁業と協力しつつ、日魯漁業をも傘下に組み込む北洋漁業各社の大合同を画策していたことも明らかにした。こうした高碕の構想は、日本の北洋漁業を圧迫しつつあったソ連に外交的に対抗するための措置であったと同時に、東洋製罐の強力なライバル会社であった日魯漁業傘下の北海製缶を同社に合併させるためのしたたかな戦略でもあった。ここからは、日ソ間の漁業交渉に際して、対ソ強硬論を唱えた民間アクターの隠された意図が伺われて興味深い。 また、「高碕達之助文書」を中心にした本年度の研究では、企業間競争に敗れ、日魯漁業(サケマス)と共同漁業(蟹工船)によって北洋漁業から締め出されてしまった林兼商店や中小の漁業家らが、アメリカのアラスカ(ブリストル湾)に出漁しようとして、深刻な日米経済摩擦を引き起こしていたこと、そして、高碕が両国間の調停をすすめていたことを明らかにした。このことは、従来注目されて来なかった北洋漁業とアメリカとの関係を考える上で興味深い事例である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究の基礎資料である「高碕達之助文書」(戦前)の資料整理・読解・分析を主眼としてきたが、この目的はおおむね達成できた。また、他の新規資料としては、未発見であった小畑忠良(元企画院次長)の個人文書をご遺族の協力を得て閲覧、複写することができた。一方、海外の公文書館での資料調査には至らなかったが、これは、「高碕達之助文書」の分析を踏まえて、次年度により充実した調査を行うためである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度の研究成果をふまえて、国内外の公文書館での資料調査を精力的に行いたいと考えている。また、個人の所有する資料の発掘にも力を入れていく。こうした作業と並行しつつ、本研究の最終目的である(1)ロシア(ソ連)との間で安定した「海の国際関係」を構築した過程、(2)北洋漁業が重要輸出産業に成長した過程、(3)満洲権益と比較した場合の北洋漁業の特質を論文にまとめていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は「高碕達之助文書」の資料整理・読解・分析に主眼を置き、その成果をもって万全の準備を整えて、国内外の公文書館等での資料調査を行おうと考えた。そのため、本年度は資料調査のための旅費を予定した通りには使用しないこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の研究費と次年度使用額を合わせて、本年度に実施しなかった国内外の公文書館等での資料調査および、論文執筆に必要な文献や資料購入のために使用する。
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