本研究の目的は、家計の労働所得に関わる不確実性の外生的な変化(不確実性ショック)と借入能力の外生的な変化(信用ショック)がマクロ経済の変動を引き起こすメカニズムを明らかにすることである。不確実性や借入能力は家計の貯蓄・労働供給・ポートフォリオなどに影響を及ぼすことが知られているが、それらの変化が景気循環に与える影響については未解明の部分も多い。不確実性ショックに関するプロジェクトでは、まず、家計レベルの賃金データを用いて、家計が直面する賃金の不確実性の変動を計測した。そして、現実に見られるような資産と賃金格差を生み出す動学確率一般均衡モデルを用いたシミュレーションにより、データから計測された不確実性ショックのマクロ経済変動へ与える影響を定量的に評価した。その結果、不確実性ショックは、これまで景気循環理論で説明することが難しいとされてきた労働市場変動のパターンを説明する鍵となることが分かった。特に、不確実性ショックを加えることで、労働時間と労働生産性の動きをデータに大きく近づけることができることを示した。これらの研究成果を国内外の学会・大学セミナーで報告し、論文にまとめ、査読付き英文雑誌に投稿した。信用ショックに関するプロジェクトでは、上記の動学確率一般均衡モデルに、さらに家計のポートフォリオ選択を含めたモデルを構築した。今後の課題は、そのモデルを用いたシミュレーションにより、信用ショックの波及経路を分析、そしてマクロ経済変動への影響を定量的に評価することである。
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