今年度は主に二つの研究を進めた。 まず相対的罰則制度が導入された社会的ジレンマ状況における人々の協力度がフィードバック情報の量によって変化するか、経済学実験の手法を用いて検証した。具体的には、毎期自分の協力度と全体の協力度の合計の情報しか観察できない場合(Aggregate)と、それに加えて各個人の協力度が観察できる場合(Individual)の比較を行った。その結果、罰が重く協力することが合理的である状況であるにも関わらず、Individualでは繰り返しとともに協力度は低下してしまった。Aggregateの場合は、協力度は維持された。この結果は、一昨年行った絶対的罰則制度を用いた実験結果と同じ傾向だが、Individualの場合の協力度の低下が、絶対的よりも相対的罰則制度の方が激しいことが分かった。 この結果の重要性は、先行研究との比較により明らかになる。先行研究では、協力度の維持には相対的罰則制度の方が絶対的罰則制度よりも等しいかより有効であると考えられていた。しかし今回の結果から、両者に差がないはずだった状況下で、情報の与え方によっては絶対的罰則制度の方が有効となる可能性が示唆された。これは、分析対象の情報環境によって制度を使い分ける必要があることを意味し、制度選択上重要な示唆を与える結果である。 次に、絶対的罰則制度においてフィードバック情報が人々の行動に与える影響を考察し一般化した結果、個々人にとっても協力をした方が望ましい環境下でも非協力行動が増加する可能性があることが分かった。そのため、そもそも協力することが合理的である場合に情報が人間行動に与える影響を分析した。その結果、Individualの場合はAggregateよりも協力度が低かった。これは、情報環境によっては協力が合理的である場合にもフリーライダー問題が発生することを示唆する重要な結果である。
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