本年度の研究は主に三つに分類できる。第一は、前年度に研究を開始した、需要についての不確実性がある寡占モデルの分析の続きである。本研究では、スポークスモデルと呼ばれる既存のモデルに、企業視点からの需要の不確実性を付加し、検討を行っている。本研究によって拡張されたモデルは、特に映画、音楽、小説、漫画などの文化財を取り扱うのに長けた性質を持っている。本研究の成果は、一旦ディスカッションペーパーとしてまとめられた。第二は、前年度に一旦完成した、第二言語選択についてのゲーム理論モデルの改訂である。本研究は前年度に完成され、ディスカッションペーパーとして公開されたが、その後、複数の研究者から論文の不明瞭な点の指摘を受けた。その指摘を受け、特にモデルと現実との対比の部分、情報構造と情報開示タイミングを説明した部分、既存研究との関連を説明した部分などを改訂した。第三は、本年度開始した日本の地方自治体における公共調達についての研究である。日本の公共調達は、自治体によっては世界に類をみない独特な方法を取っている。その調達時のデータの分析と、そのデータの裏づけとなる理論の構築を目標とした研究を開始した。より具体的には、入札(オークション)による調達時に、自治体ごとの独特な制度の違いが入札参加者の行動にどう影響を与えているか、いくつかの県および市のデータを用い、統計学的手法を用いて分析するとともに、それにゲーム理論による理論的裏づけを与えることを目標としている。
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