研究実績の概要 |
本年度は東日本大震災後に収集したサーベイデータに基づき、震災後に福島県から他地域へ避難の有無、避難した場合の機関の意思の有無についてそれぞれの意思決定の主要な要素を考察した。この結果、次のことが分かった。東日本大震災を機に地域住民は地震・津波のリスクと同時に放射線被爆リスクを回避して、よりリスクの低い地域に移動する。しかし、一方で震災以前の居住地に対しての愛着がある場合、また新居住地において教育サービスや医療サービス(公的サービス)のように一定のサーチコストを負う場合は地域間の移動の可能性は低くなる。これらを総じて考えたとき、被災者はリスクの軽減よりサーチコストの増大に対してより大きな注意を払う。よって、ある家計が公的サービスを追いやすいような構成の場合(e.g.児童が多い、高齢者が多い)、地域にとどまる可能性は高くなる(本結果は、馬奈木(九州大学)との共著論文で現在雑誌投稿、改訂中)。さらに、一度地域を離れた被災者については、避難以前の居住地における災害リスクと被爆リスクが高い場合は、帰還の意思は弱くなる。しかし、避難以前の居住地に対してより大きな愛着がある場合、資産を有している場合、あるいは漁業や農業のような、避難前の地元産業に関連している場合には帰還意思を持つ確率が高くなる(Sanaei, Horie and Managi, 2015, SER)。 これらの研究とは別に、公的な災害準備への投資(非常食、飲料水)が、家計レベルでの同様の災害準備への投資に与える影響を、Gaushl (Heidelberg University)と共同で分析をスタートさせている。
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