まず、前回の科研費研究(24730203 自殺の二次医療圏データの計量経済分析)の成果をまとめた論文を国際的な学術雑誌に投稿し、掲載された。当該研究は、日本の市区町村レベルの自殺率の挙動を同様の区分で集計された社会経済変数で説明するものであり、男性では貯蓄率が、女性では生命保険支払額がそれぞれリスク低下要因として働くことを発見した。 本科研費に基づく研究として、まず、「自殺対策のための自殺死亡の地域統計」が更新されたのを受け、都道府県別のデータベースを拡充した。当該データは、国勢調査年ごとに年齢調整かつベイズ調整された標準化死亡比を基に間接自殺率を算出している。これらと、「人口動態職業産業別集計」を基に様々な方法で算出した自殺率とを比較した。結果として、「地域統計」の自殺率は、年度間比較には最新の注意を払う必要があるものの、バイアス・変動の両面で安定化されていると推測され、以降の統計的分析では当該データを用いることにした。 また、1998年以降、高リスクであるとされる農林漁業作業者や無職者の自殺率の上昇は限定的であった。しかし、男性では専門的・技術的職業従事者、管理的職業従事者およびサービス職業従事者で、また女性では管理的職業従事者、保安職業従事者、および運輸・通信従事者で、自殺率の有意な上昇が認められた。よって、国全体での自殺率の高まりはこれら職業従事者のリスクが寄与したと考えられる。他方で、欧米の先行研究で指摘された男性の保安職従事者の自殺率は日本では低く抑えられていることが判明した。 さらに、都道府県別に職業別自殺率をプロットしたところ、女性の管理的職業従事者と保安職業従事者は東京近郊県と瀬戸内海沿岸に目立った上昇が認められた。また一般的に1998年以降でも自殺率上昇のタイミングと主な地域は職業別に様々であることが示唆された。
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