研究課題/領域番号 |
26780142
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
青木 恵子 横浜国立大学, 研究推進機構, 講師 (10546732)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生物多様性 / 米 / 選択型実験法 / 実験経済学 |
研究実績の概要 |
まず、「生産者の稀少性生物の保全努力の検証」として、同時手番のナッシュ均衡を前提とした消費者と生産者の安全確保努力モデルを不確実情報下の逐次手番の理論モデルを開発した。生産者の生産関数を農地・労働・農薬のコブダグラス型とし、朱鷺の育成は初期保有地から農地を差し引いた餌場の増加関数で、農薬の減少関数とする。生産者は農薬を減らし、労働を増やすことで、米の質を上げ、消費者の効用を上げることができるが、生産費用は増えると想定した。生産者は売値に朱鷺の育成の寄付金を上乗せでき、生産者はこの寄付額を任意に設定可能とした。一方、消費者は朱鷺の増加から効用を得る主体と効用を得ない2種類を設定する。消費者は朱鷺の育成への寄付によって、農業生産者の費用負担を下げ、朱鷺の個体数を増加させることができるとし、朱鷺の個体数は生産者と消費者の両方の意思決定に依存する関数とした。以上をマルチエージェントシミュレーションとしてプログラミングをした。エージェントはQ学習によって毎期ごとに学習を行う。実験の結果、農薬の規制は朱鷺の増加を産むが、農薬の減少による生産量の減退は新規参入を呼び込み、米の価格は安定することがわかった。つまり、市場全体としては朱鷺の育成と米の生産総量は負の関係にない。しかし、個々の農家の利益は朱鷺育成のために下がることがわかった。 次に、「稀少性生物との自発的・持続的共生のための食農環経済システム設計」を念頭に、朱鷺以外の国内の事例と海外の事例をサーベイし、制度としての共通点や長短をまとめた。本年度は佐渡市の朱鷺と兵庫県豊岡市のこうのとりを育む稲作制度を比較・検証した。朱鷺に比べて、こうのとりの方が生物多様性を前面にだしており、生産プロセスが消費者に理解しやすいことがわかった。上記二つの検証結果から朱鷺育成のための費用対効果に関する検証の基礎を得られた点で本研究の初年度の意義は高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた制度設計のための理論モデルの構築とそれをもとにしたシミュレーション分析が実施できた。また、制度比較として、朱鷺以外の希少種に対する稲作制度の比較ができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、マルチエージェントシミュレーションにおける朱鷺の育成関数をより現実に即したものにするために、朱鷺の移動経路などの調査を行う。さらに、国内の事例のみならず、海外の事例についても検証する。特に、米の世界一の輸出国であるタイの事例を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
「消費者の稀少性生物保全への価値評価」の実施準備を進めていたが、状況の変化により、当初の計画よりもさらに研究価値が高まる状況になる可能性が生まれたため、その準備と交渉に時間を掛けた。ただし、計画の遅延がないように、いつでも実施できるように準備を並行して進めている。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降に、「消費者の稀少性生物保全への価値評価」に関して、当初実施予定の研究をより拡大する形で実施する予定である。
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