本研究課題では、地方公務員の削減が地域労働市場に与える影響について、その乗数効果までも考慮に入れた分析を行った。具体的には、総務省の就業構造基本統計調査の個票データを用いたデータベースを作成し、操作変数・固定効果モデルを用いた推計を行った。 推計の結果、地方公務員数の削減が持つ効果自体は、さほど明確ではないことが明らかとなった。対して、公的支出の影響が大きいと考えられる建設業に従事している労働者の増加は、他の産業における雇用を拡大することが明らかになった。 このような結果は他の先進国を対象とした先行研究とは異なるが、日本のように少子高齢化の結果、労働供給が減少しつつある社会では、労働需要の制約よりも労働供給の制約のほうが強く、地域乗数効果ではなく、単純な産業間の代替が生じていることをを示唆している。すなわち米国や英国と異なり、日本においては、特定産業における雇用の減少は、他の産業における雇用拡大である程度吸収されている可能性が大きい。これを補完する実証結果として、建設業従事者や公務員が減少したしても、失業者数は増加せず、また地域間異動も誘発しないことも示された。 ただし推計の結果、建設業の代替となる産業は小売り業等のサービス業であることも明らかとなった。それら産業における賃金は、他の産業に比べ低く、結果雇用の質は悪化している可能性も指摘できる。またこの効果は高卒者の市場において、より顕著に観察されることも明らかとなった。
|