研究課題/領域番号 |
26780160
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
都丸 善央 中京大学, 経済学部, 准教授 (30453971)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 輸送サービス貿易 / 比較優位 / リカードモデル |
研究実績の概要 |
国際貿易理論分析の多くが、輸送費用がない、あるいは、あったとしても、輸出先に輸送する間に輸送する財の一部が消失するという形の費用、いわゆる、icebergコストを前提としている。本研究では、輸送産業を明示的に導入することで、既存研究で考察されてきた資源配分がどう変わるか、世界規模の比較優位構造にどのような影響を及ぼすか、その結果として最終財の貿易パターンはどう変わりうるか、そして、そもそもどのような国が輸送サービスを輸出することになるかについて広く検討した。 本研究が依拠するモデルは2国多数財リカードモデルである。各財を国際輸送するのに必要とされる輸送サービスはそれぞれ異なるものとし、その技術は最終財生産技術の比例倍で与えられているものと想定している。このモデルから導かれる第1の結果は、両国の輸送技術が比較的似通っているとき、そして、そのときに限り、輸送産業を考慮した本研究のモデルとicebergコストを前提とするモデルとが一致するということである。すなわち、両国間に輸送技術格差がほぼないときに限り、輸送産業があるという現実をicebergコストという極めて簡単なモデルで表現することが許されるのである。逆に言えば、両国間に輸送技術格差があるのであれば、icebergコストモデルはその有効性・現実味を失うことになるのである。 第2に、両国に輸送技術格差があるものとして、輸送サービス貿易の自由化が持つ意義について検討した。当然の結果として、輸送サービス貿易を開始すれば輸送技術の高い国が一部の財輸送に必要な輸送サービスを輸出することになる。また、輸送サービスを輸出する国は最終財の一部を輸出することをやめてしまう。興味深いことに、そうした結果を生み出す輸送貿易自由化は輸送サービス輸出国の社会厚生を改善させる一方で、輸入国の社会厚生を悪化させるのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画上では、完全競争市場と不完全競争市場の両側面からの分析を前年度までに終わらせる予定であった。しかしながら、昨年度の実施報告でも述べたように、完全競争市場についての分析において不測の分析的困難が生じてしまい、これを解決するのに多くの時間を要してしまった。とはいえ、時間をかけてその困難を克服したことで研究の質が高まったこともまた事実である。実際、論文を投稿した一流学術誌から掲載拒否をされたものの、研究の質は高く評価され、別のより専門的な一流学術誌に投稿を勧められた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は2つの方向性で研究を進める。1つは、これまで進めてきた完全競争市場についての分析に関連することである。現在までの進捗状況でも述べたように、完成した論文は一流学術誌に掲載拒否をされてしまった。それでも、1人の審査員が提案したモデル分析の大胆な簡単化は考案する価値があると思っている。これを検討し論文を修正し、改めて一流学術誌に投稿するというのが第1の方向性である。 もう1つの方向性は、当初の研究計画に基づき、不完全競争市場についての分析を進めることである。最終財産業が独占的競争市場だとみなし、輸送産業が持つ資源配分効果、貿易パターンへの効果について検討するというのが、本方向性のメインの研究対象である。現在、輸送産業が完全競争的であって、しかも、輸送サービス貿易は自由である、という世界の均衡は導けている。これを、(i) 輸送サービス貿易が自由ではない場合、(ii) 輸送産業が独占市場である場合、(iii) 輸送産業が寡占的である場合、という3つの場合へと拡張することが本年度の目標である。(i)については、輸送貿易開始によって世界で取引される最終財バラエティがどのように変化するか、各国の社会厚生がどのように変化するか、などが分析の焦点になる。(ii)については、輸送独占企業を保有する国とそうではない国とでは、生産する最終財バラエティーにどのような違いがあるか、最終財・輸送サービスの貿易パターンはどのように決まるのか、などの分析が重要になる。そして、(iii)については、輸送産業の競争度が持つ役割に焦点を当てることになる。 ただ、残された時間を考慮すれば、これらの分析のすべてを本年度で済ますのは非常に難しいと考えられる。そこで、まず、(i)にかかわるすべての分析を完成させることを本年度の最低限の目標にして研究を進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗が芳しくなかったことと体調不良の2つの理由から、当初予定していた国際学会での報告ができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度も体調不良が続いているため、飛行機に搭乗することは難しいかもしれない。そのため、2017年度も海外渡航費を計上しておくと使用が困難なことが予想される。そこで今年度は、高度な計算に必要とされる計算ソフト、国内での研究報告のための出張、海外からの研究者の招聘に研究費を使用するよう、計画を変更する。
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