本研究で得られた成果は以下のとおりである.1つは,自国と外国の輸送産業の生産技術が非常に似通っているとき,そして,そのときに限って,輸送産業を考慮した本研究のモデルとiceberg cost モデルは同値になる,ということである.すなわち,財を貿易しあう国の輸送技術がほぼ同一であるといえるのであれば,iceberg costの導入は「簡単化」とみなしうる,ということになる.逆に,両国間で輸送技術に格差があるのであれば,本研究が扱う世界はiceberg costモデルでは表現できない世界であって,「簡単化」といって安易にiceberg costの導入が許されないことになる. 2つ目の結果は,両国に輸送技術格差がある場合に関連するものである.容易に予想されるように,輸送貿易が可能になれば,輸送技術が相対的に高い国は一部の財輸送に必要な輸送サービスを輸出するようになり,その代わり,それまで生産していた財の一部を生産しなくなる.すなわち,輸送サービス輸入国が輸出する財のバラエティをふやすことになる.さらに,輸送貿易の開始が両国にもたらすことについて興味深い結果を得た.通常であれば,貿易を開始すると,自分の国が他国に対して相対的に得意な分野の財を輸出しあうことになり,両国は貿易開始よりも財を安く入手できるようになるから,両国にとって貿易は望ましい(言い方を換えれば,両国の社会厚生は改善する)という結論になる.ところが,輸送貿易の開始で両国の利益が高まるとは限らないのである.すなわち,輸送サービスを輸出する国の社会厚生は改善する一方で,輸入する国の社会厚生は悪化する可能性があるのである. 以上の結果に加え,輸送のためのインフラ(港や空港)が公企業であることが多いことを念頭に,公企業の民営化と産業政策の関係性についていくつかの論文を学術誌に掲載した.
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