本研究では、低金利・少子高齢化のもとでの財政政策とその物価、金融政策への影響について明らかにすることを目的とする。分析手法としては、失われた10年(20年)の背景について、「物価水準の財政理論(Fiscal Theory of Price Level、以下FTPL)」を基礎 とする。そして、研究の特色として、わが国経済をより良く捉えるモデルを構築するため、FTPLを以下の2点、世代重複モデルの利用および財政政策の内生化、で改良した。 得られた主な結論は、物価への影響は少子高齢化の要因により異なるというものである。出生率の低下はインフレ要因となる一方、高齢化はデフレ要因となる。現実の日本のデータ、特に過去40年の人口動態と各時点での予測値や世代別投票参加率のデータを用い たところ、後者の力が勝り、マイルドなデフレを説明できることがわかった。 研究の核となる論文はほぼ完成し、"Aging and Deflation from a Fiscal Perspective" (Mitsuru Katagiri and Hideki Konishiとの共著)としてワーキングペーパーになっており、また査読付きジャーナルに投稿中である。また、フィンランド銀行・CEPR共催コンファレンス(ヘルシンキ)で発表をした。コンファレンスのテーマ「Demographics and the Macroeconomy」は、我々の研究が時宜を得たものであったことを示すと同時に、一般公募によって我々の論文が選ばれたことは研究の質や関心の高さを示すものといえる。 当該年度は、FTPLを応用したもう一つの研究も進めた。具体的には、日米の大規模な金融緩和が物価にもたらす効果をFTPLの経路を使って分析した。本研究は、現在も分析中である。
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