本研究課題の目的は、人々の持つ期待の特徴及び期待が経済活動に与える影響を明らかにすることにある。およそ全ての経済理論が期待に依拠する一方、人々が持つ期待の特徴について十分な研究が蓄積されているとは言えないのが現状である。本研究はそのギャップを埋めるものである。 本年度は感情に焦点を当て、感情が期待に与える影響を調べる実験を実施した。嫉妬や興奮、怒りや悲しみなどの感情が期待を歪めるかどうかについての分析である。具体的には、競争的環境への参入意思決定を尋ねる標準的なリアルエフォートタスクを用いた実験において、他の被験者を用いた過去の類似の実験結果を提示することで、今回の被験者の相対的な成績を開示し、それによって被験者が抱く感情を尋ねる。加えて、リスク態度や自身の実験における成績に対する期待も尋ねることで、感情が意思決定・リスク態度・期待に与える影響を明らかにすることが目的である。つまり、本研究は感情が、意思決定の個々の要因である期待収益、期待リスク、リスク態度のそれぞれにどのような影響を与えるかを調べるものである。 分析の結果、総じて、実験実施自体により喜びや興奮などの正の感情が想起され、正の感情が期待利得を高めることで競争的な報酬体系を選択させることがわかった。 加えて、感情の概念を「グループ意識」に拡大し、各自が所属するグループに対する感情とそれ以外のグループに対する感情が意思決定及び意思決定の個々の要因に与える影響を調べる実験を実施し、分析を行った。グループ形成がどのような感情を想起し、想起された感情が期待及び意思決定にどのような影響を与えるかに関する研究である。実験により、男性は異なる集団に属する相手と競争する場合、より競争的な選択をすること、さらに女性にはその傾向がみられないことがわかった。現在、意思決定の個々の要因に与えた影響について分析している。
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