本年度は沖見初炭鉱・宇部鉄工所・宇部窒素工業の経営分析に主眼を置き,検討した.沖見初炭鉱の分析については,宇部の「社会的基盤」を保有しない,地域外資本による炭鉱経営の特質を明らかにすることで,地方株式市場の機能の優位性に関する比較研究を試みたものである.大倉鉱業資料の解読につとめ,資料の入力は終わったが,周辺資料のうち,とくに『宇部時報』の記事収集に検討の余地があり,分析は道半ばである.平成29年度中には脱稿し,『エネルギー史研究』への投稿を目指している. 宇部鉄工所については,機械工学に関する専門知識が要求されることが判明し,今年度は宇部興産機械OBへの聞き取り調査を行った.『取締役会決議録』を読み解くなかで,宇部地域の中だけに収益源を求めず,戦間期に入ると,九州をはじめとする地域外に取引先を拡大し,宇部へ利益金が蓄積されていくことが判明した.株式市場の「社会的基盤」を背景としつつ,収益の上がる企業体へ転身していく様子を実証することが可能であり,平成29~30年度の論文刊行にめどがついた. 宇部窒素工業については,昨年度購入した大山剛吉関係史料により,大山剛吉がどのような経歴の中で技術を練磨していったのかが明らかとなった.すでに宇部窒素の一次資料はデータの入力が終わっており,数年前に刊行した宇部窒素工業の研究によりアクセルがかかりそうである. なお,年度末に1920年~1931年の『宇部時報』2面・3面すべてを複写した.当該期は地方株式市場の制度が洗練され,製造業への再投資につながった時期であり,精読につとめたい.
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