今年度における研究は、一橋大学が所蔵する「メディチ家文書」の調査、メディチ家の毛織物製造・販売に関する調査、そしてフィレンツェでのヴェントゥーリ家文書の調査、の3点にまとめられる。以下、それぞれについて概要を記す。 まず「メディチ家文書」の調査である。この文書は、一橋大学社会科学古典資料センターが所蔵する貴重な史料である。報告者はこの史料を丁寧に解読した結果、これがフランチェスコ・ディ・ジュリアーノ・デ・メディチによってオスマン帝国で記録された会計帳簿であると確認した。そこで報告者は、本研究課題と直接的に関わるこの貴重な史料を紹介し、フランチェスコの活動内容をまとめた論文を執筆し、センター年報に掲載した。 つぎにメディチ家の毛織物製造・販売に関する調査である。前述のフランチェスコはメディチ家のある一族「ジョヴェンコの家系」に属していた。この家系は長い間毛織物工業に携わっていたことが知られている。そこで報告者はこの家系の経済活動について調べ、同家が毛織物を製造しつつそれをオスマン帝国で販売もしていた(つまり「貿易する織元」であった)事実について整理し、『経済系』(関東学院大学)で公表した。 そして、フィレンツェでのヴェントゥーリ家文書の調査である。報告者は9月にフィレンツェの国立古文書館およびインノチェンティ捨児養育院古文書館において史料調査を行った。その結果、国立古文書館が1500年前後におけるヴェントゥーリ家の経営記録を多く所蔵していることを確認できた。ヴェントゥーリ家は前述の「ジョヴェンコの家系」と同じく、毛織物を製造しつつ販売する「貿易する織元」であった。今回の調査でヴェントゥーリ家の活動の詳細を物語る多くの経営記録が見つかったことにより、来年度以降に取り組むべき課題が明確になった。 今年度は、以上の3点にまとめられる研究を進めた。
|