本研究の目的は、インドの地場自動車部品サプライヤ企業コミュニティに対する日本的な生産システムの移転の可能性について考察を行うことである。当初の目的は、平成29年度には、前年度までにインドの自動車部品サプライヤに対してケーススタディを行うことにより帰納的に構築した仮説をアンケート調査で実証することと、その成果を学会で発表を行い、そこで得たフィードバックを踏まえて成果を査読付きの論文を執筆・出版することであった。
これらの計画に照らし合わせ平成29年度を振り返ると、当初の計画と今年度実施したこととのずれは、ケーススタディから帰納的に構築した仮説を実証するためのアンケート調査を行えなかったことである。これには計画段階で予測し得なかった2点の問題があったためである。まず、経営学における知識移転の文献の蓄積はすでに70年近くあり、その文献を踏まえ穴を指摘することに非常に時間を有したことがあげられる。次に、インドにおけるデータ収集の困難性である。インドにおいて他の国でも同じようにネットワークを構築することが企業から有効なデータを集めるのに重要になる。このネットワークの構築に想像以上に時間を有した。
しかし、成果の部分は計画通りに進んだ。定性データから多くの新奇性を伴う仮説を構築し、その成果を多国籍企業学会(10月)、およびナレッジ・マネジメント学会(5月)で発表を行った。そこで得られた有益なコメントを踏まえ、調査の成果を査読付きの論文にまとめ赤門マネジメントジャーナルに投稿し、3月に受理され出版された。さらには、実地調査でケーススタディを行った経験から既存のケーススタディアプローチの問題点を発見し、それについて発表資料をまとめナレッジ・マネジメント学会において3度にわたり発表(5月・8月・12月)を行ったことも主題とは若干はずれはするが学術界への貢献の一つであったと考えている。
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