最終年度にあたる2018年度においては,主に明治・大正期に地方で見られた競売会社の設立運動に焦点をあて,特に福岡県における有力商人や旧士族による競売会社の設立過程を詳細に検討した.その成果は,2件の学会報告(明治期福岡の競売会社:博多競商株式会社と株式会社福博競売市場」経営史学会西日本部会,九州大学,2018年6月30日.および「地方企業家による競売会社の設立:明治期・福岡を対象にして」企業家研究フォーラム,2018年7月21日)と,研究論文(「地方企業家による競売会社の設立:明治期の福岡県を対象に」『武蔵大学論集』)にて公表した.これまで各地方における競売会社の設立運動については史料上の制約もあり十分な研究が行われてこなかったが,本研究において仮定款を入手することができ,地方において競売運動がどのように波及したかを理解する手がかりを得ることができた. 本研究全体を通しては,日本における古物・骨董の業者間市場という,オークションを採用する市場としては特有の慣行を持つ取引制度を,フィールド調査および歴史的方法を用いて明らかにすることができた.本研究を通じて,市場における慣行はその参加者の多様な利害と影響力の多寡を反映して形成され,また,その影響力の変化などに応じて慣習も変わりゆくことが明らかとなった.業者間市場における慣行は「上から」設計されるものではなく,参加者間の相互作用の中から創発的に形成されるものであるために,市場外の第三者の観点から見れば特殊で非合理的なものに映ることもある.しかしながら,その慣行がどのような機能をもっているかは個々の市場のコンテクストから読み解く必要があることが本研究から導かれた論点である.
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