研究最終年度の成果としては,研究目的であった次の2点のうち,とりわけ第1の目的に対する進捗が著しかった。研究目的とは,第1に,自動車産業における次世代自動車普及に向けた開発・生産のプロセス革新をオープン・イノベーションの観点から分析し実態を明らかにすることであった。第2の研究目的は,標準化された中間財の市場取引を念頭におくオープン・イノベーションの活用が,いかにしてコモディティ化を回避しつつ収益化しているのかという仕組みを明らかにすることであった。 成果の具体的内容としては,とりわけ日本国内の自動車産業において,次世代自動車の開発・生産における主要な要素技術の担い手として,完成車メーカーは日系部品メーカーよりも外資系(もっぱらドイツ系)をパートナーとして選択することが増えていることが明らかになった。これは上位完成車メーカーよりも中堅完成車メーカーにおいて顕著に見られる。要因としては,次世代自動車に必要な要素技術をグループ内,系列内から調達する手段を持たない中堅企業が,国内の上位系列部品メーカーのみならず,システム単位での部品納入を得意とする外資系部品メーカーと積極的に取引し,その対象を拡大してきたことが挙げられるのである。この点は,標準化された技術を市場から調達するというオープン・イノベーションの典型的パターンとはやや異なるものの,従来の擦り合わせ優位の開発・生産パターンとは一線を画すものであり,次世代自動車市場のトップランナーでもある日本国内市場での競争のあり方が明確に変化しつつあることを実証することができた。 第2の研究目的については,分析対象としていた米テスラの製品投入計画が遅れたことにより,研究期間中に目立った動きを観察することができなかった。電気自動車のビジネスは未だオープン・イノベーションには至っていないため,コモディティ化の懸念はまだ先のことになるだろう。
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