本年度は研究の最終年度として、在東南アジアの日系海外製造子会社1715社(産業問わず)に対する質問票調査を行った。産業を限定することなく、さらに回答者も日本人に限定しないことで、サンプリングバイアスがないようにした。結果、340社以上の返答を得た。これは、国際経営分野の海外子会社に対する郵送質問票の返答率としては十分な数字である。なお、質問票の項目などは前年度の調査を元に作成しており、プレテストなども行っている。 この質問票では、従属変数として、市場シェアなどの市場パフォーマンス、生産性などの組織パフォーマンス、ポジション(知識移転、現地権限)について尋ねている。独立変数としては、「海外製造子会社同士の社内競争の強さ(競争度)」に加えて、「本社とのコミュニケーションの頻度」「海外製造子会社どうしの社内協調の強さ(協調度)」などを取得した。 分析結果を示す。まず日本企業の海外子会社間の競争度は低く、競争度を回答した268社のうち、競争度が7点尺度の4を超えた企業は42社しか存在しなかった。そもそも日本企業の場合、海外子会社を競争させるマネジメントが一般的でないことが示唆された。 次に、上記の従属変数と競争度の重回帰分析を行った。結果、競争度は現地権限のみ負の相関を示した。すなわち、競争度はそれ単独だけでは市場パフォーマンスや組織パフォーマンスに影響を及ぼさないことが明らかになった。むしろ競争をさせることが現地の権限を抑圧する可能性が示唆された。 ただし、競争が常に悪いとは限らない。協調度と競争度の高低でマトリックスを作り、協調度も競争度も7点尺度の4以下のグループと、そうでないグループの間で市場パフォーマンスを比較すると、協調度も競争度も低いグループの市場パフォーマンスは低かった。ここから、競争は協調の有無を条件として、市場パフォーマンスに影響を与えている可能性が示唆された。
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