最終年度となる本年度は、前年度以前からの調査を含めた3つの領域からそれぞれひとつずつ、現在既に市場に普及している医薬品を選びその普及過程について、情報をやりとりしていると想定される医療従事者たちによるパーソナル・ネットワークの分析ならびにMRの情報収集活動の調査を実施した。 医療従事者のパーソナル・ネットワークについては、医薬品を採用する医療従事者に影響力があると想定される学会誌の論文データからネットワークの描画、分析を行った。2つの医薬品については医薬品会社へのインタビューを実施し分析結果の妥当性の確認ならびに分析結果の解釈の聞き取りを行った。1社の医薬品会社の了解を得て学会報告した研究では、普及期間を前期と後期に分けた上で分析を行った。その結果、形成される多数のネットワークの各ネットワークに「影響力のある人物」が属していることが前期において顕著に見られた。また、論文に付与されたキーワードを分析することで、医薬品の普及過程における研究内容の変容、研究グループ別の研究テーマの違いを明らかにした。 普及過程におけるMRの情報収集活動については、受け入れ可能な医薬品会社において調査を行った。医薬品の普及に成果をあげるMRは概して大きなパーソナル・ネットワークを形成している。未発表の研究成果、特にMR調査の研究結果については、医薬品会社に開示の許可を得られるよう協議を行い必要な場合は追加調査を実施した上で、次年度以降に公表する予定である。 本研究では医療従事者の情報や知識の蓄積と共有に注目してきたが、医薬品普及には既存の医薬品や治療方法の影響も考察する必要があると考えられる。平成29年に採択予定である、課題番号17K03983「既存市場へイノベーションが普及する過程における製品価値と採用者ネットワークの解明」にて取り組む予定である。
|