平成28年度は、前年度に実施した質問票調査データの解析、国際学会での報告の2つを主に行った。具体的には次のとおりである。 前者の実証研究については、タイで事業展開している日系および現地資本企業を対象としたオンライン・アンケート調査によるデータの統計的な解析を行った。実証研究を通じて明らかにされた主な点として、第一に、職務の自律性や公式化といった職務特性が従業員の態度や行動に及ぼす影響が企業の資本特性に応じて異なることである。第二に、社会的意義や社会的影響力といった職務の関係的・対人的側面が、異文化下のHRMの有効性を検討するうえで重要な変数となっていることである。第三に、異文化下のHRMの有効性に対して、職務成果に対する従業員と評価者との認知的ギャップが寄与していることである。 次に、国際学会での報告については、2017年3月にイスラエルのテルアビブ大学で開催された28th International Academic Conferenceにて、The Effect of Relational Job Characteristics on Disagreement of Contextual Performanceというテーマで報告を行った。諸外国から人的資源管理論を専門とする研究者が集い、テーマに関わる意見交換が行われた。 これらのことから得られた研究成果は次のとおりである。まず、従来のHRM研究で十分に関心が寄せられていなかった職務設計の特性が異文化下のHRM活動に重要な役割を果たしていることが示された点である。また、職務成果に対する従業員と評価者との認知的ギャップが、従来の研究でブラックボックスとされていたHRMと組織的成果との関係を媒介する重要な変数であることも明らかとなった。
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