研究課題/領域番号 |
26780248
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
木村 晃久 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (80585753)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 損益の表示区分操作 / 利益マネジメント / 価値関連性 / 利益の質 / 財務会計 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、わが国の連結損益計算書を対象として、経営者が損益項目の表示区分を操作しているか否か、操作している場合、それが利益の質にどのような影響をあたえるか、実証的に検証することであった。申請時における本年度の計画は、昨年度までに明らかにされた表示区分の操作に利用されている損益項目を対象として、経営者による損益項目の表示区分操作が投資家の投資意思決定にどのような影響をあたえるか、利益資本化モデルを用いて実証的に検証することであった。 前年度までの研究によって、減価償却費の過少計上による損益項目の区分操作の存在を示唆する結果が得られていたことから、本年度はまずこの項目を対象として検証をおこなった。その成果は学術論文として『横浜経営研究』第37巻第2号に「固定資産の償却不足に対する投資家の評価」として発表している。そこでは、固定資産の償却不足に対して、投資家は誤導されないという検証結果を得ている。 このほか、営業外損益と特別損益の両区分に計上可能な「固定資産処分損益」を利用した損益項目の表示区分操作が存在することについて、『横浜経営研究』第37巻第3号に「わが国損益計算書における固定資産処分損益の区分シフト」として発表している。また、損益項目を限定せず、損益の区分操作を連続的におこなっていると推定されるような企業の利益の価値関連性について、『會計』190巻5号に「経常的特別損失に対する投資家の評価」として発表している。そこでは、損益の区分操作を連続的におこなっていると推定されるような場合であっても、投資家はそれに対して概ね誤導されないという検証結果を得ている。さらに、損益項目の表示区分操作と損益の期間配分操作の関係を考察することを目的として、『横浜経営研究』第37巻第1号に「特別損益の計上パターンと利益マネジメントの関係」を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請時点における本年度までの計画は、損益の表示区分操作が可能な個別の損益項目を識別したうえで、それらの項目を利用した損益の表示区分操作がおこなわれているか否かの実態を分析し、そのうえで、損益の表示区分操作が投資家の投資意思決定にどのような影響をあたえるか、利益資本化モデルをもちいて検証することであった。本年度は、これらの検証をひととおり完了させることができた。 さらに、本年度は、個別の損益項目に着目したもののみならず、先行研究では検証の対象とされていない連続的な損益の表示区分操作についても、その価値関連性を検証している。これについては、個別の損益項目を対象としておらず、かつ、先行研究で検証されていないという点で新規性の高いものであり、当初の計画を超えるものといえる。 よって、当初の計画以上に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
交付申請時点においては、最終年度は損益の表示区分操作が投資家の投資意思決定にあたえる影響について、企業価値評価モデルのインプットとして利益をもちいた場合の企業価値推定の精度を尺度として検証をおこなう予定であった。しかし、上述したように、当初の計画以上に研究が進展していること、および、単なる測定尺度の変更では研究の価値としては追加的な貢献が少ないと考えられることから、最終年度は、損益の表示区分操作の実態とそれが投資家の投資意思決定にあたえる影響について、検証手法などをブラッシュ・アップしたうえで、研究書としてまとめる準備に充てる。なお、その過程で、当初予定の企業価値評価モデルのインプットとして利益をもちいた場合の企業価値推定の精度を尺度とした検証を織り込む可能性もある。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費に関して、日程の都合上、予定していた海外への学会参加ができなかったため。また、予定していたPCの更新投資をおこなわなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度予定していたPCの更新投資(ワークステーションの購入)を年度のはじめに予定している。また、海外への学会参加も予定している。
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