本研究の目的は、わが国の連結損益計算書を対象として、経営者が損益項目の表示区分を操作しているか否か、操作している場合、それが利益の質にどのような影響をあたえるか、実証的に検証することであった。申請時における本年度の計画は、損益の表示区分操作が投資家の投資意思決定にあたえる影響について、企業価値評価モデルのインプットとして利益をもちいた場合の企業価値推定の精度を尺度として検証をおこなう予定であったが、前年度終了時の研究進捗状況を勘案して、損益の表示区分操作が投資家の投資意思決定にあたえる影響について、検証手法などをブラッシュ・アップしたうえで、研究書としてまとめる準備に充てることにした。 本年度は、制度上、一時的な損益を区分表示することが強制されているわが国の連結損益計算書を対象として、経営者が損益項目の表示区分を操作しているか否か、操作している場合、投資家はそのような利益情報に誤導されるかについて、同一期間のみならず、会計期間をまたぐ損益の区分操作も対象とした実証的な検証を包括的におこなった。これについては、『区分式損益計算書における損益の区分シフト―その実態と株価への影響―』と題する博士論文として東京大学に提出し、最終審査を待っている段階である。 このほか、本年度は、これまで検証対象としてきた経常利益と特別損益の区分ではなく、当期純利益と包括利益の区分に着目して、「連結包括利益計算書の開示規制が企業の利益調整行動に与える影響」と題する研究報告を、日本会計研究学会第76回大会の特別委員会報告「企業会計制度設計に関する総合的研究」(中間報告)の一部としておこなっている。また、経常利益のみならず営業利益と特別損益の区分操作に利用されうる減損損失に着目して、「実証分析―減損損失に対する投資家の反応と評価」を『証券アナリストジャーナル』に寄稿した。
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