本研究の具体的な研究項目は,(1)会計基準の整合性分析と実証分析の関係の解明,(2)両者を統合した新たな研究方法の模索の2つである。 本年度は,まず,昨年度の上記(1)に関する研究の改訂を行った。昨年度,会計基準の整合性分析の科学性について,科学哲学の議論を参照しながら考察を行ったが,これを事業用不動産の減損処理に援用する形でより具体的な検討を行った。その結果,方法論の再検討を試みることで,先行研究にはないより広い視点から分析を行うことができるようになることが明らかになった。 また,上記の研究項目(2)に焦点を当てた研究も行った。企業価値評価モデルの残余利益モデルに分析対象を絞り,減損会計基準の新設による会計基準の体系の変化とその役割の関係について,整合性分析の観点から定性的に検討を行った。その結果,減損会計基準の設定によって,減損資産に関する評価モデルでの取扱いが明確になったことから,減損会計基準の設定前に存在したバイアスが減少すると考えられることが明らかになった。さらに,議論の過程で,減損会計基準設定後,整合性分析を意識した残余利益モデルによる企業価値の株価説明力が,整合性分析を意識しないモデルによる株価説明力より大きいものであるか否か,それが業績の悪い企業において顕著に表れるか否かということが検証仮説となり得ることが明らかになった。このように整合性分析から検証可能な仮説を導出するという研究姿勢は,実証研究と整合性分析を統合した新たな研究方法のひとつとして発展する可能性を秘めていると考えられる。 しかしながら,当該仮説の検証段階で良い結果が得られなかった。そこで,改めて会計基準の整合性分析の観点から減損会計の開示制度も含めた包括的な検討を行った。その結果,減損会計の開示制度について,減損会計の開示制度が会計基準の体系性との関連で十分に設計されていないことが明らかになった。
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