研究課題/領域番号 |
26780253
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研究機関 | 下関市立大学 |
研究代表者 |
足立 俊輔 下関市立大学, 経済学部, 准教授 (30615117)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 会計学 / 病院経営 / BSC / 病院原価計算 / TDABC / RVU法 / フランス管理会計 / クリティカルパス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、病院バランスト・スコアカード(病院BSC)を媒介にして、「価値重視の病院経営」と時間主導型原価計算の関係を日仏米の国際比較の観点から整理することで、医療におけるマネジメント・コントロール及び原価計算のあり方を検証することである。具体的には、「医療の質」確保を前提とした内部プロセスの効率性を達成するために用いられる病院BSCのKPI指標として、「時間」を配賦基準とした病院原価計算(時間ベースの病院原価計算)で算定されるキャパシティ情報(業務遂行に用いられる資源の量)を用いることの有用性を検証することを目的としている。 本研究は、医療のマネジメント・コントロール及び原価計算の特徴を明らかにするために、病院BSCのKPI指標に時間ベースの病院原価計算のキャパシティ情報を用いることの有用性に着目している点に、学術的な特色・独創的な点がある。そこで本研究では、①「価値重視の病院経営」に貢献する病院BSCの有用性の研究と、②時間ベースの原価計算の情報利用に関する国際比較研究の2つの課題に取り組むことで、病院BSCを媒介として「価値重視の病院経営」と病院原価計算の体系的な分析整理を行う。 以上の研究を行うにあたり、BSCや病院原価計算の基本的文献・資料の収集を行いながら、同時にインターネット上でも具体的な最新情報を収集する。特に、病院BSCと病院原価計算(特に時間主導型の病院原価計算)の関係について記載された文献を読み解きながら分析整理を行う。また文献収集だけではなく、国内を中心に実際の病院訪問調査を行い、病院BSCおよび病院原価計算に対する現場の意見も積極的に取り入れる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、病院BSCを中心に研究を進め、医療におけるマネジメント・コントロールの現状と課題を認識することに着目した研究を行った。具体的には、我が国の病院BSCの戦略マップには、視点の数や序列に多様なバリエーションがみられることに着目して、病院BSCの戦略マップが形成されていく過程で、どのような要因が影響を与えるのかについて、九州医療センター(福岡市)の事例分析から明らかにした。 また、我が国における病院BSCの実務例をレビューし、病院BSCの視点の配置パターンに加えて、顧客の視点に位置づけられるステークホルダーの多様性を指摘するとともに、それらの形成に影響を与えている可能性のある諸要因を析出した。研究では、設立主体の属性、導入レベル、および外部専門家の指導などが、その形成要因として一定の関連性をもっている可能性を析出した。 以上の研究成果は、①丸田起大・足立俊輔「我が国における病院BSC実務の多様性―ケースレビューによる類型化の試み―」『経済学研究』(九州大学)第81巻4号、2015年3月、②丸田起大・足立俊輔「我が国における病院BSC実務の多様性と形成要因―ケースレビューにもとづく探索的研究―」『産業経理』(産業経理協会)、2015年4月で発表している。とりわけ、長期に渡って観察してきた九州医療センターのBSCの取組みから、病院BSCの戦略マップの形成過程に着目して研究を進めることができたことは、本研究の主目的から少し外れるものの、病院BSC研究における考察を深めることができ、成果があったと捉えている。 また、2014年9月にフランスのパリ第9大学やアンジェ大学に行き、フランスのマネジメント・コントロール研究の第一人者である故アンリ・ブッカン氏の弟子(ニコラ・ベルラン氏ほか)にヒアリング調査を行い、フランス管理会計およびマネジメント・コントロールの実情を調査した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、①「価値重視の病院経営」に貢献する病院BSCの有用性の研究と、②時間ベースの原価計算の情報利用に関する国際比較研究について、並行して取り組んでいる。 前年度は、病院BSCに関する研究を中心に行い、我が国の病院BSCの戦略マップには、視点の数や序列に多様なバリエーションがみられることに着目した。今年度も病院BSCの導入状況や、その現状や課題に注目していくとともに、病院原価計算との関連で病院BSCの研究を進めることにしたい。 これまでの研究から、時間要素を重視した原価計算は病院に比較的馴染みやすく、例えば、病院でクリティカルパスなどを導入し、パスにかかる時間を集計する際に合わせてコスト計算が可能となる点でいえば、TDABCは病院に受入れられやすい原価計算手法といえることを明らかにしてきた。時間要素を重視した原価計算でいえば、フランスで考案されたUVA法も「1取引あたりの時間」を配賦基準としており、「時間」を配賦基準とする原価計算に着目した国際比較研究を進めることには意義があると思われる。 ただ、これまでクリティカルパスと時間主導型の病院原価計算の関係を詳細にまとめてこなかったため、今年度はクリティカルパスの現状と課題を整理した上で、「時間」を配賦基準とする病院原価計算の現状と課題について研究を進めることにしたい。その上で、最終年度に、病院BSCを媒介とした「価値重視の病院経営」と病院原価計算の体系的な分析整理を行う予定にしている。
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