研究2年目かつ最終年度である平成27年度は、非上場株式の評価に関するわが国における実務的文献をレビューし、実際の会計基準(IFRS第9号等)が想定している内容と実務との乖離が生じる点を浮き彫りにしつつ、わが国において全面的に非上場株式の公正価値会計が導入された際のインパクトの追究も試みた。会計基準と実務が乖離しているといっても、財務諸表の数値に与える影響額の重要性が乏しいのであれば、会計基準セッターにとっては当該事案はそれほど問題視すべき事項ではないかもしれないからである。 具体的に本年度は、特に東証一部上場企業の財務諸表における注記情報から評価が困難であると見なされた有価証券に関するデータを収集し、そういった証券の公正価値会計がもたらすインパクトを数量的に提示すべく分析を進めた。その結果、評価困難な有価証券(非上場株式)を全て公正価値で評価することによる会計数値へのインパクトは無視できない一定程度の影響を及ぼす点を明らかにした。それと並行して、各種文献に基づき情報収集を重ね、これまでの研究で推し進めてきた社会学の観点に基づく学際的考察を深め、研究論文として取り纏めた。 当該研究成果として、和文は日本会計研究学会第74回全国大会の自由論題にて報告するとともに、英文は2つの著名な国際学会で査読を経て口頭報告の機会を得た。その過程で得られたフィードバックを参考に研究を精緻化し、関連する2本の研究論文として外部に公表した。
|