本研究の目的は、保険契約会計における収益費用ないし資産負債の対応概念の現代的意義を明らかにすることである。最終年度である平成28年度は、前年度の研究成果を学術論文としてまとめ、また、研究の総括を行った。 前年度では、国際会計基準審議会(IASB)が主導する保険契約会計基準の策定プロジェクトにおける「対応概念」の変容問題を検討した。保険契約会計において対応概念の変容が生じた背景には、IASBが、保険契約会計モデルとして(現行保険会計実務と親和的な)フローの配分を重視する会計モデル(フローモデル)から、ストックの評価を重視する会計モデル(ストックモデル)への転換を図ったことがある。本年度では研究の総括として、このフローモデルとストックモデルの会計モデル間対立という視点から、保険契約会計の抱える問題について検討を行った。 保険契約会計におけるストックモデルとフローモデルの対立は、ストックモデルの意義を先験的に主張する基準設定主体(IASB)と現行実務と親和的なフローモデルの意義を認める利害関係者との対立であった。資産と負債の経済価値評価を要請するストックモデルは、ソルベンシー規制などの保険業を取り巻く周辺制度ではすでに採用されている。しかしながら、利害関係者の多くは、会計制度には純粋なストックモデルを導入することに拒否反応を示した。 IASBは、資産と負債を共に経済価値評価し、両者の評価損益をマッチさせる測定モデル(保険会社が行う資産負債管理と整合的な測定モデル)を、保険契約会計における理想的な測定モデルであると考えていた。しかし、多くの利害関係者は「保険負債とその裏付資産との評価損益のミスマッチを解消ないし報告すること」それ以上に「保険契約の履行状況を情報利用者に伝達すること」を保険契約会計に期待していた。そのような情報を提供できるのは、伝統的な対応概念による利益情報である。
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