本研究では、不確実な環境下で、企業が持続的な優位性を構築するための組織能力を明らかにすることを目的としており、このような観点から、変化する関係状況に対応して管理会計システムを継続的に変化させている企業において観察される組織の行動パターン(ルーティン)について検討してきた。このために大規模製造業に対するインタビュー調査を通じて、とりわけ2000年以降の期間について、このような組織ルーティンの析出に取り組んできた。 本研究においては、2000年以降の十数年間において生じた管理会計変化について明らかにするとともにそれを可能としている組織ルーティンについて検討を行ってきた。その結果明らかとなったことは、第一に、危機的状況下においてはトップダウンによる指示強制型のコントロールが行われているのに対して、平常時においては現場の創造性を許容する自律創造型のコントロールが行われている。そしてこのようなコントロールの利用方法の切り替えに、一定の反復的なパターンが観察されることである。 第二に、当該リサーチサイトにおいて、特にリーマンショック前後において生み出された余剰生産能力を適切に管理するための管理会計手法について、学術的視点からその特徴を明らかにしている。特に、従来の製造間接費に着目した余剰生産能力の管理に対して、固定費である労務費について生じた余剰生産能力を管理するという点に特筆すべき点があり、原価計算技法の教科書的な適用を超えて独自の工夫を行うという創造性を可能としているような組織の行動パターンが見られる。 このような発見事項について、2017年度は、昨年度までに実施した調査のデータ不足を補うための追加調査を行い、これらの成果をもとに作成した論文を国内の学会において発表するとともに、国内学会誌への投稿を行った。
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